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スティーブンスン『バラントレーの若殿』解説あらすじ

スティーブンスン
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始めに

 スティーブンスン『バラントレーの若殿』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロマン主義

 スティーブンスンは、イギリスを代表するSF作家です。ヘズリット、ラム、ワーズワース、サー・トーマス・ブラウン、デフォー、ホーソーン、モンテーニュ、ボードレール、オーバーマンの影響が顕著で、全体的にロマン主義的テイストが濃厚です。

 スティーブンソンは、現実的なディテールを積み重ねることで物語に真実味を持たせる手法を学びました。デフォー『ロビンソン・クルーソー』に見られる徹底した事実の記録のような文体に影響を受けました。『宝島』における宝の地図などの小道具や、具体的な航海術の描写はその系譜にあります。スコットはスコットランドの歴史小説の巨匠です。RLSはスコットランドの歴史と風景、そして方言を物語に組み込む手法を彼から継承しました。


​ ​『ジキル博士とハイド氏』に代表される人間の内なる二面性や罪悪感の探求には、アメリカ文学の巨匠たちの影が見られます。ホーソーンの人間の罪、道徳的な葛藤、そして深層心理を描く手法に強く惹かれていました。善と悪の境界が曖昧になる感覚は、ホーソーンの短編に通じるものがあります。ポーのゴシックな雰囲気や、読者の恐怖を煽る緻密な構成、そして異常な心理状態の描写において影響を受けています。


​ ​スティーブンソンは優れたエッセイストでもあり、その軽妙かつ真摯な文体はフランスやイギリスの古典から磨かれました。モンテーニュからは自己の内面を見つめ、自由な形式で綴るエッセイのあり方を学びました。ハズリットは19世紀イギリスの批評家・エッセイストです。RLSはハズリットの力強くも優雅な散文に心酔し、自身の文体のモデルの一つとしました。


​ フランス語に堪能で、フランスの詩人や作家からも直接的なインスピレーションを得ています。ヴィヨンは中世フランスのならず者詩人でした。スティーヴンスンは彼を主人公にした短編『一夜の宿』を執筆しており、ヴィヨンの退廃的かつ生命力あふれるイメージに魅了されていました。ユゴーからはロマン主義的な壮大さと、劇的な場面構成の影響を受けています。

兄弟。分身

 スティーヴンスンの代表作『ジキル博士とハイド氏』でも追求された人間の二面性が、本作ではジェームズとヘンリーという兄弟の対立として具現化されています。​兄ジェームズは魅力的で才気煥発だが、道徳観を欠いた純粋な悪の象徴です。​弟ヘンリーは誠実で忍耐強いが、地味で報われない受動的な善の象徴です。


 ​物語が進むにつれ、兄の執拗な嫌がらせによって、善良だった弟ヘンリーの精神が蝕まれ、憎悪に染まっていく過程が描かれます。絶対的な悪が善を侵食し、最終的に両者が区別不能な破滅へと向かう様は、単純な勧善懲悪を否定する極めてモダンなテーマです。


​ ​兄弟は正反対の性質を持ちながら、磁石の両極のように互いを引きつけ合い、離れることができません。スコットランドからアメリカの荒野まで、彼らは地理的な距離を超えて互いを追い詰め合います。最終的に、二人は同じ場所で同時に命を落とします。これは、一方が存在するためにはもう一方が必要であるという、自己の中の他者との葛藤を象徴しています。

信頼できない語り。歴史

 本作の重要なテーマの一つは、真実の不確かさです。

 物語の大部分は家令のエフライム=マッケラーの日記や回想として綴られます。​マッケラーは弟ヘンリーに忠実であり、兄ジェームズを悪魔として忌み嫌っています。しかし、その記述の端々からは、彼自身がジェームズの邪悪な魅力にどこか惹きつけられている矛盾も透けて見えます。 読者はマッケラーというフィルターを通した物語しか知ることができず、登場人物の真の動機は常に霧の中に置かれます。

 また​1745年のジャコバイト蜂起という歴史的背景が、物語に重厚なリアリズムを与えています。反乱軍(兄)と政府軍(弟)に分かれるという家を守るための策が、結果として家を崩壊させる引き金となります。古い騎士道的な悪のジェームズと、新しい市民社会的な秩序のヘンリーの双方が共倒れになることで、一つの貴族の家系が消滅していく過程は、ポーの『アッシャー家の崩壊』にも通じるデカダンスを感じさせます。

物語世界

あらすじ

 ​1745年、ジャコバイトの反乱が勃発します。スコットランドの貴族ダリスディア卿は、家名を守るために一人は反乱軍(チャールズ皇太子側)へ、一人は政府軍(ハノーヴァー朝側)へと息子たちを振り分けます。どちらが危険な反乱軍へ行くかを決める際、兄のジェームズと弟のヘンリーはコインを投げ、ジェームズが反乱軍に加わることになります。


 ​カローデンの戦いで反乱軍は敗北し、ジェームズは戦死したと伝えられます。弟ヘンリーは不本意ながらも若殿(マスター)の称号を継ぎ、兄の許嫁であったアリソンと結婚します。


 しかし、ジェームズは生きていました。数年後、海賊や傭兵として悪名を馳せたジェームズが帰還し、ヘンリーに対して自分が犠牲になったおかげで弟は全てを手に入れたと執拗なゆすりと心理的圧迫を始めます。


​ ​ジェームズは家の中で傍若無人に振る舞い、ヘンリーの妻や子供の心を操ろうとします。忍耐を重ねていたヘンリーでしたが、ついに限界を迎え、真夜中に兄弟は秘密の決闘を行います。ヘンリーはジェームズの胸を刺し、ジェームズは死んだかに見えました。しかし、死体は忽然と消え、ジェームズはインド人の召使いセカドラの手を借りて再び姿を消します。


​ ​数年後、ヘンリーは兄の影から逃れるために、家族を連れてニューヨークの植民地へ渡ります。しかし、復讐心に燃えるジェームズはそこまでも追ってきます。ヘンリーはついに正気を失い、刺客を雇って兄を始末しようとします。ジェームズは追っ手から逃れるため、セカドラが持つ仮死状態になるインドの秘術を使って土の中に埋まり、後で掘り起こしてもらうことで死を偽装しようと計画します。


 ​アディロンダックの荒野で、ヘンリーたちはジェームズの墓を掘り起こします。セカドラが蘇生の儀式を行うと、ジェームズの目が見開き、一瞬だけヘンリーを睨みつけます。その恐怖と衝撃でヘンリーはショック死し、ジェームズも蘇生に失敗してそのまま息絶えます。こうして、憎しみ合った兄弟は、異国の地で一つの墓に並んで埋葬されるという皮肉な結末を迎えます。

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