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ゴールディング『自由な転落』解説あらすじ

ゴールディング
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始めに

 ゴールディング『自由な転落』解説あらすじを書いていきます。


背景知識、語りの構造

ギリシア悲劇、ミルトンの影響

 ゴールディングは、ギリシャ悲劇やミルトンなどの影響を受けました。神話的、宗教的象徴のモチーフ、寓話的ストーリー、悲劇的物語などにおいて、その影響が見えます。

 ​R.M. バランタインは​ゴールディングを語る上で最も重要な負の影響です。19世紀の冒険小説『サンゴ礁の島』は、イギリスの少年たちが無人島で文明的に、かつキリスト教的な徳を持って生き抜く物語でした。ゴールディングは第二次世界大戦での経験から、この無垢な少年たちという楽観的な人間観に強い違和感を抱きました。『蠅の王』は、実質的に『サンゴ礁の島』に対するアンチテーゼとして書かれています。

​ ​ゴールディングは古典文学に非常に造詣が深く、特にギリシャ悲劇の逃れられない運命や人間の内なる狂気というテーマに強く影響を受けています。また​ゴールディングは自身の作品を「寓話」と呼ぶことを嫌う傾向もありましたが、聖書的な象徴主義は随所に散りばめられています。

タイトルの意味

​ この作品の核心的な問いは、人間はいつ自らの意志で『自由』を捨ててしまうのかという点にあります。タイトルの「自由な(Free)」と「転落(Fall)」は矛盾する言葉ですが、自らの自由な意志で、あえて転落する道を選んだという意味が込められています。


​ サミーは子供時代の無垢な状態から、現在の絶望的な状態に至るまでの記憶を辿り、自分が取り返しのつかない選択をした瞬間を特定しようとします。

 ​サミーの人生における最大の罪は、かつて愛した女性、ビアトリスへの仕打ちです。サミーは彼女を一個の人間としてではなく、自分の欲望や芸術的インスピレーションの対象としてしか見ていませんでした。 彼が彼女を捨てたことで、彼女の精神が壊れてしまったことへの深い自責の念が、物語全体を覆う暗い影となっています。

転落の起源

 サミーの少年時代には、二人の対照的な教師が登場し、彼の価値観の形成に大きな影響を与えます。​ニック=シェイルズは理性的で慈愛に満ちていますが、精神世界や奇跡を否定します。​ロウィーナ=プリングルは信仰を説きますが、本人は嫉妬深く残酷な面を持っています。サミーはこの合理的な世界と精神的な世界の板挟みになり、どちらにも救いを見いだせないまま、冷笑的な生き方を選んでしまいます。

 ​物語のクライマックスは、ナチスの尋問官ハルデ博士によって、真っ暗な独房に閉じ込められる場面です。闇の中でサミーは何かに触れ、それを切断された人間の舌だと思い込んでパニックに陥ります。この極限状態での恐怖は、外側にあるのではなく、彼自身の内面にある空虚さや邪悪さが形を成したものです。この経験を通じて、彼は初めて人間としての自分を再認識することになります。

物語世界

あらすじ

 物語の構成は、現在の独房での恐怖と、過去の記憶の断片が交互に語られます。​第二次世界大戦中、画家のサミー=マウントジョイは、ドイツ軍の捕虜となり、尋問官ハルデ博士によって真っ暗な独房に閉じ込められます。​外部からの刺激を完全に遮断された極限状態で、サミーは自問します。自分はいつどこで自由な意志を失って取り返しのつかない転落を始めたのか、と。


 ​彼は、自分が無垢であった子供時代から、現在に至るまでの分岐点を探すため、記憶の迷宮へと入り込みます。サミーはスラム街の貧しい家庭で育ち、少年時代に二人の象徴的な教師に出会います。​ニック=シェイルズは合理主義と科学を説く教師で、世界を明快に説明しますが、そこに魂の居場所はありません。​ロウィーナ=プリングルは宗教を説く教師ですが、彼女自身は嫉妬深く、サミーを精神的に虐待します。​サミーはこの二人の間で引き裂かれ、やがて精神的な価値を信じず、自分の欲望だけを追求するという冷笑的な道を選んでしまいます。


 ​サミーが自由を捨てた決定的な瞬間は、美しい少女ビアトリスとの出会いでした。彼は彼女を狂おしく愛しますが、それは相手を尊重する愛ではなく、所有したいという病的な執着でした。​彼は、彼女の魂を屈服させようと執拗に迫り、彼女を精神的に追い詰め、ボロボロにして捨ててしまいます。


 ​後に、彼女がそのショックで精神を病み、廃人同様になってしまったことを知り、サミーの心には消えない罪の刻印が押されます。


​ ​再び物語は独房の暗闇に戻ります。サミーは床に転がっている濡れた肉のようなものに触れ、それを尋問官が置いた誰かの切り取られた舌だと思い込んで発狂寸前のパニックに陥ります。恐怖のあまり、彼はそれまでの高慢な自分を捨て、なりふり構わず助けてくれと叫び声を上げます。その瞬間、独房の扉が開かれ、彼は解放されます。​実は、彼が触れたのはただの汚れた雑巾でした。しかし、この偽りの恐怖によってサミーのプライドは完全に打ち砕かれ、彼は自分自身の内面にある醜さと対峙することになります。


​ ​独房から出たサミーの目に映る世界は、以前とは全く違って見えました。すべてが輝き、生命に満ちているように感じられたのです。しかし、彼が犯した罪が消えるわけではありません。彼はかつて壊してしまったビアトリスが入院する施設を訪れますが、彼女はもはやサミーを認識することもできません。彼は自分の罪を背負ったまま、赦されることのない転落」の人生を歩み続ける決意をして、物語は終わります。

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