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アプトン=シンクレア『石油!』解説あらすじ

アプトン=シンクレア
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始めに

 アプトン=シンクレア『石油!』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

アプトン=シンクレアの作家性

​ シンクレアの社会の汚部をありのままに描くスタイルは、ヨーロッパの文豪たちの影響を色濃く受けています。ゾラが『ジェルミナール』などで描いた、労働者の過酷な現実や社会構造の矛盾を科学的な視点で捉える手法は、シンクレアの代表作『ジャングル』の基盤となりました。イギリスの社会格差や貧困層の悲劇を描いたディケンズからも、強い影響を受けています。物語を通じて社会改革を訴えるという姿勢は、シンクレアに共通するものです。またユーゴー 『レ・ミゼラブル』に見られるような、社会の底辺にいる人々への深い同情と、壮大な人道主義的視点は、シンクレアの理想主義の源泉の一つでした。


​ シンクレアは単なる小説家ではなく、熱心な社会主義者でもありました。資本主義の構造的欠陥を理解する上で、マルクス主義は彼の思想の背骨となりました。またシンクレアはイエスを最初の社会主義者あるいは革命家として深く尊敬していました。


​ シンクレアは若い頃、サッカレーの『虚栄の市』のような風刺的な視点を好んで読んでいました。​ジョージ=スターリングは同時代の詩人であり、シンクレアの友人でもありました。彼の芸術に対する真摯な姿勢は、シンクレアの初期の創作活動に刺激を与えました。

社会主義的テーマ

​ この物語の核心は、石油王である父ジェームズ=アーノルド=ロスと、社会主義に傾倒していく息子バニーの対照的な視点にあります。利益を追求するために手段を選ばない資本主義の冷酷さと、労働者の権利や平等な社会を求める理想主義が真っ向からぶつかり合います。​バニーは、富裕層としての特権を享受しながらも、労働現場の悲惨な実態を見て良心の呵責に苛まれる板挟みの世代を象徴しています。


​ ​シンクレアは、巨大な資本がどのように政治を動かし、歪めていくかを冷徹に描き出しました。​ティーポット・ドーム事件という実際に起きた大規模な収賄事件をモデルにしており、石油利権をめぐる政界・財界の癒着を痛烈に批判しています。民主主義が金で買われるプロセスがこの小説の大きな裏テーマです。

世代間の確執

 単なる政治小説にとどまらず、複雑な父子の愛情物語としての側面も持っています。​父ダッドは、冷酷な実業家ではありますが、息子に対しては深い愛情を持つ人物として描かれています。​価値観が決定的に異なっていく中で、それでも断ち切れない親子の情愛が、物語に人間的な深みを与えています。


​ ​物語には、新興宗教のカリスマ的な伝道師なども登場します。​宗教が石油資本と結びつき、大衆をコントロールするための道具として利用される様子が描かれており、当時のアメリカ社会の多面的な腐敗を浮き彫りにしています。

物語世界

あらすじ

 舞台は20世紀初頭の南カリフォルニア。かつてはロバ引きだったジェームズ=アーノルド=ロス(ダッド)は、不屈の精神と抜け目のなさで、石油採掘のビジネスを成功させます。物語の主人公である息子バニーは、父を心から尊敬し、車で各地の油田を巡る父に同行します。バニーにとって、地面から噴き出す石油は魔法のような成功の象徴でした。


 ​バニーは、石油が掘り当てられた土地に住む貧しい農家の息子、ポール=ワトキンスと友人になります。​​ポールは第一次世界大戦を経て、労働者の惨状を目の当たりにし、過激な共産主義・社会主義思想に傾倒していきます。バニーはダッドとポールの二人の間で、どちらが正しいのか、自分の居場所はどこなのかと揺れ動き始めます。


​ ​バニーが成長するにつれ、石油ビジネスの汚い側面が浮き彫りになっていきます。ダッドの事業は、歴史的に有名なティーポット=ドーム事件(政府の石油備蓄をめぐる収賄事件)に巻き込まれていきます。一方、現場では労働者が劣悪な環境に抗議してストライキを起こし、バニーは父を愛しながらも、労働者たちに同情し、彼らを密かに支援するようになります。


​ ダッドの帝国は政治スキャンダルと法的追及によって崩壊の危機に瀕します。ダッドは再起を図りますが、心身ともに疲れ果てて亡くなります。


 莫大な遺産を手にするはずだったバニーですが、最終的に彼は富よりも理想を選びます。彼は、自分が信じる教育や社会改革のために生きる決意を固め、父が築き上げた石油ビジネスの世界から離れていくのです。

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