始めに
ジョイス=キャロル=オーツ『生ける屍』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
オーツの作家性
オーツはチェーホフを短編小説の神のように敬愛しています。客観的でありながら、登場人物の心の機微を逃さない描写スタイルを継承しています。処女短編集『震え』は、ジョイスの『ダブリン市民』へのオマージュから始まっています。またアメリカ南部のゴシック的風景や、家族に流れる血と土地の因縁を描く手法において、フォークナーの影響は多大です。
南部ゴシックの旗手であるオコナーからは、暴力がもたらす宗教的道徳的な啓示の手法を学んでいます。ヘンリー=ジェイムズの幽霊譚(『ねじの回転』など)における心理的な不安定さや、洗練された散文の構成に影響を受けています。ポーの恐怖の本質を突くゴシック的な想像力は、彼女のミステリーやホラー作品の基盤となっています。
オーツは『不思議の国のアリス』が持つ夢の論理や歪んだ現実を自身の作品にたびたび取り入れています。また内省的で、時に自己破壊的な女性の内面を描く際、シルヴィア=プラスの詩的で強烈な表現が投影されることがあります。
タイトルの意味
主人公クエンティンが求めるゾンビとは、自分の意のままに動き、決して自分を拒絶したり去ったりしない究極の所有物です。彼は他者を感情のある人間としてではなく、部品や道具として見ています。ロボトミー手術によって、相手の意志を奪い、自分の欲望を満たすためだけの抜け殻を作ろうとする執着が描かれています。
この小説の恐ろしい側面の一つは、クエンティンが異常な行動をとっているにもかかわらず、周囲の大人がそれを見過ごしている点です。彼の両親、特に高名な教授である父親は、息子の異常性に気づきながらも、自分たちの社会的地位やまともな家族という幻想を守るために現実から目を逸らします。執行猶予中の保護観察官や精神科医も、彼の表面的な善良な青年という演技に騙され、真実を見抜くことができません。
オーツは、怪物を遠く離れた異世界の存在としてではなく、郊外のありふれた風景の中に溶け込んでいる存在として描いています。クエンティンはショッピングモールに行き、家族と食事をし、庭仕事をします。悪は特別な姿をしているのではなく、私たちのすぐ隣で息を潜めているという恐怖がテーマとなっています。
語りの構造
この小説はクエンティンの日記形式で書かれていますが、その文体は断片的で、しばしば奇妙な図解や大文字が混じります。この壊れた文体自体が、彼の歪んだ認識と、感情が欠落した冷酷な内面世界を表現する重要な装置となっています。
クエンティンがゾンビを欲するのは、彼が通常の人間関係を築く能力を完全に欠いているからです。彼にとっての愛や親密さは、相手を破壊し、完全に固定することと同義です。他者と繋がることができない絶望的な孤独が、破壊衝動へと変換される過程が描かれています。
物語世界
あらすじ
実在の連続殺人鬼ジェフリー・ダーマーをモデルに、狂気の内側を日記形式で描いた衝撃作です。主人公は31歳のクエンティン・P。彼はかつて少年への性的暴行で逮捕され、現在は保護観察中の身です。一見すると、彼は裕福で教養ある家庭の手のかからない息子を演じています。著名な大学教授である父親、過保護で現実から目を逸らし続ける母親、そして彼を信頼する祖母。クエンティンは家族との食事や庭仕事、地域奉仕活動をこなしながら、社会の隙間に完璧に溶け込んでいます。
しかし、彼の日記に綴られているのは、おぞましい「ゾンビ製造計画」です。クエンティンは、自分を決して拒絶せず、裏切らず、永遠に自分の言いなりになる完璧な伴侶を求めています。そのために彼が導き出した答えは、誘拐した青年の脳にアイスピックで穴を開け、ロボトミー手術を施して意思を奪うことでした。
彼は中古のバンを駆り、ショッピングモールや街角で獲物となる若い男たちを物色します。彼は医学書を読み漁り、自宅の地下室や離れの小屋で手術を試みます。しかし、素人の手による手術が成功するはずもありません。誘拐された青年たちは、ゾンビになる前に死んでしまうか、単なる動かない死体へと変わってしまいます。死体が増えるたび、彼は冷酷かつ淡々とそれを処理し、再び善良な息子の顔に戻って家族と夕食を囲みます。
クエンティンは何度も危機に直面しますが、家族の否認や社会のシステムの甘さに助けられ、すり抜けていきます。そして今日もまた、彼は完璧なゾンビを求めて夜の街へと繰り出していくのです。




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