始めに
アポリネール『虐殺された詩人』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
アポリネールの作家性
アポリネールの初期のキャリアは、フランス象徴主義の土壌から芽吹きました。アポリネールの初期の詩に見られる、音楽的な抒情性はヴェルレーヌの象徴主義影響が色濃いです。マラルメの形式主義も、後にアポリネールが完成させる図形詩(カリグラム)の先駆け的なヒントとなりました。
ランボー「地獄の季節」に見られるような、既成の価値観を破壊し、新しい言語を模索する姿勢は、アポリネールの革新性の源泉となりました。
『ユビュ王』で知られるジャリの、ナンセンス、ユーモア、そして既存のモラルを嘲笑するパタフィジック(形而超学)的態度は、アポリネールの作風に影響しました。ピカソやブラックとの友情を通じて、多角的な視点から対象を再構成するというキュビスムの手法を文学に取り入れました。これが句読点の廃止や、断片的なイメージのコラージュという彼独自のスタイルを決定づけました。
ホイットマンの自由詩や、都市の喧騒・文明を肯定的に捉えるエネルギーは、アポリネールに影響しました。
アポリネールは出生や育ちの影響もあり、多言語的なバックグラウンドを持っていました。アポリネールはドイツ滞在経験があり、ハイネのロマン主義に深く共鳴していました。中世フランスの放浪詩人ヴィヨンの無頼な生き様と、口語を交えた生々しい抒情も影響があります。
彼はこれらの影響を咀嚼し、伝統を尊重しつつも、機械文明や新しい芸術を肯定する「新精神」のスローガンを掲げ、シュルレアリスムへの道筋を作りました。
詩人の殉死
この小説のクライマックスでは、詩人は社会の役に立たない、世界を悪くしているのは詩人だ、という極端な反知性主義が高まり、世界中で詩人の大虐殺が行われます。 繊細な感性を持つ芸術家クロニアマンタルが、理解のない野蛮な大衆によって抹殺される美の敗北が描かれます。クロニアマンタルは、いわば芸術の殉教者として描かれています。
アポリネール自身がポーランド系イタリア人(国籍不明の私生児)としてフランスで生きた背景が、主人公の出生に強く反映されています。主人公が経験する失恋(マリー・ローランサンとの別れがモデル)や、周囲からの孤立は、アポリネールが抱えていた自分は何者かという問いと直結しています。
アポリネールは現代性の詩人でした。この作品でも、古い文学形式を壊し、新しい表現を模索する姿勢が見られます。既存の価値観を笑い飛ばすユーモアと残酷さの融合です。詩的な散文の中に、神話的な寓話やナンセンスな対話が混ざり合い、伝統的な物語の枠組みそのものを破壊しようとしています。
物語の最後、虐殺された詩人のために、友人の画家(ピカソがモデル)が記念碑を建てますが、それは地面を詩人の形に掘り下げた、空っぽの空間でした。芸術家は消えても、その不在そのものが芸術として残るという逆説的な希望が描かれます。
物語世界
あらすじ
主人公の名はクロニアマンタル。彼は、自由奔放な母マカレと、変わり者の父との間に不義の子として生まれます。父は彼が生まれる前に謎の死を遂げ、母も彼を産んで間もなく亡くなります。天涯孤独となった彼は、寄宿学校を転々とし、若くして詩人としての才能を開花させます。
やがてクロニアマンタルはパリへ出ます。そこで彼は、新進気鋭の画家ベネディクト=アルプ(パブロ=ピカソがモデル)らと交流し、芸術の最先端を駆け抜けます。彼は時代の寵児となり、詩によって新しい世界を切り拓こうと情熱を燃やします。
物語の中盤、彼は美しい女性トリストゥーズ=バレリネット(マリー・ローランサンがモデル)と恋に落ちます。しかし、この恋は幸せな結末を迎えません。奔放で気まぐれな彼女は、クロニアマンタルを深く愛しながらも、最終的には彼を裏切り、捨て去ります。この失恋は、彼の心に深い傷を残します。
突如、世界中で奇妙な運動が起こります。ドイツ人のオラス=テュフォーという男が、世界中の不幸の原因は詩人にあり、詩人は無用な存在であり、彼らを根絶やしにすべきだ、と扇動し始めたのです。この狂気は世界中に広まり、各国で詩人たちが次々と殺害されていきます。
クロニアマンタルもまた、暴徒と化した群衆に捕らえられます。彼は自分が詩人の王であることを誇り高く宣言しますが、無残にも惨殺されてしまいます。物語の最後、親友の画家アルプは、彼の死を悼んで記念碑を建てようとします。しかし、金も材料もないアルプが作ったのは、地面をクロニアマンタルの形に深く掘っただけの、中身が空っぽの彫刻でした。




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