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マッカーシー『アメリカの鳥』解説あらすじ

メアリー=マッカーシー
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始めに

 マッカーシー『アメリカの鳥』解説あらすじをかいていきます。

背景知識、語りの構造

マッカーシーの作家性

 マッカーシーの文体は、19世紀の巨匠たちから多くを学んでいます。


​ 特にトルストイの写実主義からの影響は大きいです。またフローベール、オースティン、​スタンダールのリアリズムからも刺激されました。


​ ​エドマンド=ウィルソンは元夫であり、リアリズムや保守主義の点で影響されました。​ハンナ=アーレントは友人で、その保守主義に影響されました。


​ 他にもヴァッサー大学で古典を学び、ラテン語の正確さや修辞学を身につけたほか、幼少期から教会の教義や論理的な思考訓練を受けました。

アメリカの鳥たちの死

​ 主人公の大学生ピーター=レヴィは、自然を愛し、純粋な価値観を大切にしようとする青年です。しかし、彼が目にするのは、大衆消費社会によって破壊されていく自然や、観光地化され商品に成り下がった古いヨーロッパの街並みです。かつて空を埋め尽くしていたアメリカの鳥(リョコウバトなど)が絶滅したように、古き良き美徳や、混じりけのない自然が失われていきます。
​ 誰もが旅行に行き、誰もが芸術を鑑賞できるようになった民主主義社会の結果、押し寄せる観光客が、その対象である文化そのものを踏み荒らしていく矛盾を描いています。

カントの理想と現実

 イマヌエル=カントの「定言命法」(自分の行動原理が普遍的な法則となるよう行動せよ)が重要なモチーフです。​ピーターはパリへの留学中、いかなる状況でも誠実で、平等で、善良であろうと努めます。しかし複雑で汚れた現実社会の中で、彼の純粋な善はしばしば滑稽で無力なものとして描かれます。


​ 物語の背景にはベトナム戦争の影があります。ピーターが抱く正義や理想が、現実の政治や歴史のなかで無力を呈します。特にラストシーンで彼が経験する出来事は、18世紀的な啓蒙主義が、20世紀の混沌とした現実の前で敗北することを象徴しています。


​ 『グループ』でも描かれるリベラリズムの理想と現実が主題になっていると言えます。

物語世界

あらすじ

 主人公は、19歳の大学生ピーター=レヴィ。彼は非常に理知的で、イマヌエル=カントの定言命法を道徳的な指針として生きようとする、純粋で古風な青年です。
​ 

 物語の前半は、ピーターが母ロザムンドと過ごす、ニューイングランドの田舎町での夏休みが描かれます。

 音楽家であり、洗練された美的感覚を持つ母ロザムンドは、アメリカの消費社会や現代化を嫌っています。二人は正しく、美しく生きることを理想としますが、周囲の世俗的な社会からは浮いた存在です。

 ピーターは野鳥観察を愛し、自然の中に道徳的な秩序を見出そうとします。しかし、土地の象徴であった「ウ」の死など、自然が失われていく予兆が不穏に描かれます。

 ピーターは大学のジュニア・イヤー・アブロード(3年次の海外留学制度)を利用して、パリへと渡ります。彼はヨーロッパに、アメリカの俗っぽさから逃れた真の文化と道徳を期待していました。

  しかし、彼が目にしたのは、観光地化され、アメリカ化が進むパリでした。また、当時のベトナム戦争に対するデモや、複雑な政治状況が影を落としています。

  ピーターは「善き人」であろうと努めますが、他者とのコミュニケーションはうまくいかず、孤独を深めます。自分が信じていた普遍的な道徳が、現実の世界では通用しないのではないかと疑い始めます。

 自然を愛していたピーターですが、パリの公園で白鳥に手を噛まれてしまいます。その傷がもとで感染症を起こし、高熱を出して入院します。

 病床の昏睡の中で、ピーターは憧れの哲学者カントの幻影を見ます。そこで彼は、自然は死んだという啓示を受けます。

  かつてカントが神が死んだという時代に道徳を再構築しようとしたように、ピーターは自然が失われた世界で、どう生きていくべきかという問いを突きつけられるのでした。

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