始めに
ジュール=ルナール『にんじん』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ルナールの作家性
ルナールは、極限まで切り詰められた文体と鋭い観察眼で知られています。
ルナールはフロベールの推敲に推敲を重ねる完璧主義を深く尊敬していました。ルナールのアフォリズム的文体の根底には、フロベール的な文体への執着があります。
またルナールにとってドーデは、文壇への足がかりを作ってくれた恩人であり、ユーモアやペーソスを継承します。
ラ・フォンテーヌはフランス最大の寓話詩人ですが、ルナール代表作『博物誌』は、ラ・フォンテーヌの寓話の伝統を近代的な視点で再構築したものと言えます。
ゴンクール兄弟の日記のスタイルからも影響があり、ルナール自身も膨大な日記を残しています。
にんじんの孤独
作品のテーマは、家族の中にいながら、誰からも愛されないにんじんの絶望です。
母(ルピック夫人)は執拗ににんじんをいびり倒します。父(ルピック氏)は息子が苦しんでいるのを知りながら、自分に火の粉が降りかかるのを避けるために見て見ぬふりをします。にんじんは家族という組織の中で、感情を押し殺し、顔色を伺いながら生き抜く心理的な孤児として描かれています。
にんじんは、虐待を生き抜くために嘘をつき、卑怯な振る舞いをし、時には自分より弱い動物に残酷なことをします。愛されない子供は、歪んだ形で自分を守ろうとすることを、ルナールは冷徹に描きます。
絶望と希望
この物語では、言葉が理解し合うためではなく、攻撃や逃げるために使われます。父と息子が最後に少しだけ歩み寄るシーンでも、そこにあるのは実は父も母のことが嫌いだったという、奇妙で虚しい連帯感です。わかり合えない絶望を黒い笑いでつつみます。
しかし物語の終盤、にんじんはついに母親に対して嫌だと拒絶の意志を示します。言いなりだった彼が、自分を守るために声を上げ、親の所有物であることをやめ、一人の人間として自立しようとします。
物語世界
あらすじ
特定の大きな事件が起こるというよりは、にんじんが受ける日常的な虐待やエピソードの積み重ねで構成されています。
にんじんは、他の兄弟が嫌がる仕事(夜中に暗い鳥小屋の鍵を閉めに行く、など)を無理やり押し付けられます。母は彼を心理的に操り、彼が嘘をつかざるを得ない状況に追い込んでは「嘘つきだ」と責め立てます。
厳しい環境を生き抜くため、にんじんは非常に賢く、冷笑的な性格になっていきます。時に動物を残酷に扱ったり、わざとひねくれた態度を取ったりすることで、自分の中の孤独や怒りを解消しようとします。彼は「愛されること」を諦め、自分を強く持つことで心を守ろうとします。
物語の終盤、にんじんはあまりの辛さに耐えかねて、ついに父親に対して「僕はもうお母さんが嫌いだ」と告白します。それまで無関心だった父親も、実は自分も妻(ルピック夫人)を愛していないこと、自分も家庭の中で孤独であることを息子に明かします。二人は初めて心を通わせ、にんじんは「自分だけが苦しんでいたのではない」という事実に救いを見出します。
母との関係が改善する兆しもなく、厳しい生活は続いていきますが、父と秘密を共有したことで、にんじんの中に「精神的な自立」が芽生えます。




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