始めに
川上弘美『センセイの鞄』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
川上弘美を形成するもの
内田百閒、色川武大、深沢七郎、藤枝静男、河野多恵子、久世光彦、江國香織、山田詠美、田辺聖子などを川上弘美は好んでいます。
百閒の幻想文学テイストや語り口は、川上に継承されています。
色川武夫の口語的語りも同様で、『狂人日記』のような朦朧とした語りが本作には見えます。
深沢七郎は谷崎からの影響が顕著で、豊かな口語的語りが特徴です。谷崎のさらにルーツの泉鏡花のような豊かな語りで、幻想的世界が綴られるのが川上文学です。
田辺聖子も特に好んでいて、手数の多いシチュエーションの卓越したデザインと心理的機微の情緒で魅せる手腕が共通し、本作などにも田辺の影響が見えます。
年の差恋愛
本作は主人公のツキコさんこと大町月子を語り手とします。
ツキコさんは行きつけの居酒屋で、30歳離れた高校の恩師で古文の先生だった、センセイこと松本春綱に再会、2人の恋愛が始まります。
ツキコさんも30歳後半なので、年の差のある2人の年齢を描きます。
包容力のあるセンセイとツキコの間に結ばれる、教師と教え子のような関係が描かれます。
タイトル
タイトルになっている通り、センセイはいつも鞄を持ち歩いていて、それが作品のモチーフになっています。
最終的に、センセイは亡くなってしまい、その鞄をツキコさんさ引き取ることになります。
鞄の中身は空っぽで、ツキコさんの喪失感をそれが象徴しています。
物語世界
あらすじ
数年前に居酒屋で再会してから、ツキコとセンセイの交流が始まります。センセイは、ツキコの高校時代の国語の先生でした。
2人は自然とその居酒屋で会うようになり、はしごしたり、ときにはツキコがセンセイの家に訪ねたりします。また居酒屋の店主であるサトルさんも2人と交流します。
またツキコはセンセイに誘われて市に出かけたり、サトルさんにキノコ狩りに連れて行ってもらいます。
年が明けたお正月。ツキコは、コートを羽織って外に出ます。ツキコはバスを待っていましたが、最終バスを逃していたのでした。
心細くなったツキコは、「センセイ、帰り道が分かりません」とつぶやきます。すると、「ツキコさん」と呼ぶ声があります。ツキコが振り向くと、そこにはセンセイがありました。
そして2人は並んで歩き、駅前の赤ちょうちんに入ります。酒を飲んで感傷的になり、泣きそうになったツキコは「明けましておめでとうございます」と言い。センセイは、「えらいえらい」と、笑ってツキコの頭をなでます。
あるときセンセイは、毎年高校の始業式前に開催されているお花見にツキコを誘います。センセイは、石野先生という美術の先生からハガキをもらっていました。石野先生は、ツキコが高校生のとき30代半ばだった先生です。
ツキコはセンセイに連れられて土手までやって来ます。やがてセンセイは石野先生と並んで楽しそうに話し始めます。その手には、いつもは食べないタレの焼き鳥があります。
そんなとき、小島孝という高校時代の同級生が、ツキコに話しかけてきました。そして、ツキコと小島孝は花見を抜けてバーに向かいます。
2人は夜まで飲み、別れ際、小島孝はツキコにすばやくキスをします。
それから、ツキコは小島孝に旅行に誘われました。ツキコはあいまいな返事をして、センセイのことを思います。
サトルさんの店でセンセイと会ったツキコは、その日深酒しますが、気が付くと、ツキコはセンセイの家にいました。「自分で行きたい行きたいと騒いだじゃありませんか」とセンセイは話します。ツキコは「小島孝とは旅行に行きたくない」自覚します。勢いで「センセイが好き」と言います。
あるときセンセイは、サトルさんの店から帰っている途中、ツキコに「島にいきませんか」と言います。ツキコは期待に胸をふくらませますが、添い寝止まりで旅行は終わります。
その後、ツキコはセンセイと美術館で「デート」をします。その帰り、センセイは「したおつきあいをして、いただけますでしょうか」とツキコに告げ、ツキコは、センセイに抱きつきます。
3年後、センセイは亡くなります。ツキコは、センセイの息子からセンセイの鞄を遺品として授かります。
天井のあたりからセンセイの声が聞こえてきそうな夜、ツキコは鞄の中に広がるぼんやりとした空間を見つめます。




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