始めに
ビアス「アウルクリーク橋の出来事」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ジャーナリズムでのキャリア
ビアスは、ジャーナリストとして活躍し、新聞記事への寄稿や雑誌編集でキャリアを積み、風刺的な才覚や筆力を身に着けました。
ジェームズ=ワトキンズの指導でシェイクスピア、ラロシュフーコー、スウィフト、ヴォルテール、サッカレーなどに触れ、その風刺性、リアリズムにおいて感化されました。
ロマン主義者で、ディケンズやH=ジェイムズのリアリズムを批判しました。他方、チャールズ=ディケンズの随筆『ニューゲート訪問』では、男が死刑を逃れる夢を見ており、これが出典ではないかともされます。
信頼できない語り手
本作は信頼できない語り手を設定します。語り手は異質物語世界の語り手ですが、ファークワーに焦点化をはかり、およそファークワーの主観的な体験を伝えます。
このファークワーは、南軍支持者で、裕福な農園主で奴隷所有者です。ファークワーは北軍の罠にはまって、絞首刑を待っています。物語の中で、ファークワーは橋から落とされ、過去のことがフラッシュバックしたり、刑場からの脱走と自宅への帰還が語られます。
しかし、実はそれは絞首刑で命を失うまでにファークワーが見た夢に過ぎず、ファークワーは首吊りによって命を落とすのでした。
物語世界
あらすじ
アメリカ南北戦争中、裕福な農園主で奴隷所有者ペイトン=ファークワーは、アラバマ州の鉄道橋で絞首刑に処されようとしています。6人の軍人と歩兵中隊が橋を警備し、刑に取りかかっています。
ファークワーは妻と子供たちのことを考えていたものの、そのときひどく大きな金属音に気を取られたます。それは時計の刻む音でした。ファークワーは、縛られた手を自由にすれば橋から飛び降りて泳いで逃げることを考えたものの、その前に兵士たちが彼を橋から落とします。
フラッシュバックし、ファークワーとその妻がある晩、家でくつろいでいると、南軍の軍服を着た兵士が門に馬でやって来ます。南軍支持者のファークワーは、北軍がアウルクリーク鉄道橋を占拠し、修理したことを彼から聞きます。兵士によると、ファークワーなら警備員をすり抜け、橋を焼き払えるかもしれないと示唆します。兵士はその後、その場を立ち去るものの、日暮れ後に引き返し、来た道を北へ戻ります。その南軍兵士は実は変装した北軍の斥候で、鉄道の妨害は絞首刑に処せられるという罠に、そうしてファークワーを誘導したのでした。
物語は現在に戻り、首に巻かれていたロープが切れてファークワーは小川に落ちます。ファークワーは両手を自由にし、輪を外し、水面に浮上して逃走しようとします。ライフルや大砲の射撃を避けるために、川に潜って下流へ泳いでいきます。やがて小川を離れ、30マイル 離れた自宅へ向かいます。
ファークワーは森の中を歩き、その夜、奇妙な星座が見え、未知の言語で囁かれる幻覚を味わいます。
翌朝、歩きながら眠ってしまい、いつの間にか農園の門の前にいました。急いで妻を抱きしめようとするものの、首の後ろを強く殴られるのを感じます。
大きな音がして白い閃光が走り、すべてが暗闇と静寂に包まれます。ファークワーは橋から落ちてから絞首縄で首を折られるまでの間、脱出と帰宅の旅を想像していたに過ぎませんでした。
参考文献
・西川正身『孤絶の諷刺家アンブローズ・ビアス』
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