始めに
メアリー=シェリー『フランケンシュタイン』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ディオダティ荘の怪奇談義
1816年の夏、メアリー、パーシー、クレアはジュネーブにいるクレアの恋人、バイロン卿を訪ねました。バイロンと訪問者は時間をつぶすために、メアリー、パーシー、バイロンの主治医であるジョン=ポリドリの3人で、屋内に閉じこもっている間に最高の幽霊物語を書くコンテストを行うことをバイロンが提案します。
メアリーは『フランケンシュタイン』 を創作してコンテストで優勝しました。
両親と結婚の影響
メアリーの作品は両親の影響を強く受けています。彼女の父親ウィリアム=ゴドウィンは『政治的正義』でしられる、功利主義、近代無政府主義の先駆者です。彼には小説もあり、これらの小説には『ケイレブ・ウィリアムズ』、『セント・レオン』、『フリートウッド』などがありますが、いずれもスイスを舞台としており、『フランケンシュタイン』の舞台と似ています。
母メアリ=ウルストンクラフトは『女性の権利の擁護』で有名なフェミニズムの先駆者です。しかしメアリーを生んだことで、体調を崩して亡くなりました。
母親の死、父親と継母との関係、最初の子供の死など、波乱の人生は作品に影を落としています。
ロマン主義などの影響
メアリーの夫パーシー=シェリーはイギリスロマン主義の代表的詩人で、そこからロマン主義や幻想文学からの影響が強いです。
その他ジャンリス夫人の『ピュグマリオンとガラテア』や、オウィディウス作品などの影響があります。 オウィディウスのプロメテウス神話から、メアリーは示唆をうけました。
この小説には、ジョン・ミルトンの『失楽園』やサミュエル・テイラー・コールリッジの『老水夫の歌』の影響があります。
フランケンシュタインと怪物はどちらもパーシー・シェリーの 1816 年の詩「無常」の一節を引用しており、どちらも自由というテーマを象徴します。
他にサミュエル・テイラー・コールリッジの詩「老水夫の歌」は罪悪感のテーマと関連付けられ、ウィリアム・ワーズワースの「ティンターン修道院」は無垢と関連付けられて引用されます。
フランソワフェリックス=ノガレ の『現実の奇跡』は、等身大の自動機械を作成するフランケシュタインという名前の発明家を主人公としており本作への影響をうかがわせます。
科学と合理主義
メアリーの同時代、ロンドンで生体電気ガルバニズムによる人間の蘇生を何度も公に試みたジョヴァンニ・アルディーニ、人間の寿命を延ばす化学的手段を開発したとされるヨハン・コンラート・ディッペルがおり、こうした科学者の存在からも影響が見えます。
パーシーとバイロンはエラスムス・ダーウィン、ルイージ・ガルヴァーニ、ジェームズ・リンドについて会話し、そこから影響をうけています。
物語世界
あらすじ
イギリス人の北極探検隊の隊長ロバート=ウォルトンが姉マーガレットに向けて書いた手紙の形式です。
ウォルトンはロシアのアルハンゲリスクから北極点に向かう途中、北極海で衰弱した男性を見つけ、助けます。彼の名はヴィクター=フランケンシュタインであり、ウォルトンに自らの体験を語ります。
スイスの名家出身でナポリ生まれの青年フランケンシュタインは、父母と弟ウィリアムとジュネーヴに住んでいました。両親はイタリア旅行中に貧しい家で養女のエリザベスを見て養女にし、ヴィクターたちと育てます。フランケンシュタインは科学者を志し、故郷を離れてドイツ=バイエルンの名門のインゴルシュタット大学で自然科学を学びます。
ある時を境にフランケンシュタインは、生命の謎を解き明かしたいという野心にとりつかれます。そして「理想の人間」の設計図を完成させ、神に背く行為であると自覚しながらも計画を実行します。自ら墓を暴き人間の死体を手に入れ、それをつなぎ合わせることで怪物の創造に成功します。
怪物は、優れた体力と人間の心、そして知性を持ち合わせるものの、容貌は醜いものでした。あまりのおぞましさにフランケンシュタインは絶望し、怪物を残した故郷のジュネーヴへと逃亡します。しかし、怪物は生き延び、野山を越え、途中で言語も習得して雄弁になります。やがてフランケンシュタインの元へたどり着くものの、自分の醜さゆえ人間たちからは忌み嫌われ迫害されたので、ついに弟のウィリアムを怪物が殺し、その殺人犯として家政婦のジュスティーヌも絞首刑にります。
孤独から自己の存在に悩む怪物は、フランケンシュタインに対して、自分の伴侶となり得る異性の怪物を造るように要求します。怪物はこの願いを叶えたならば二度と人前に現れないと約束します。フランケンシュタインはストラスブルクやマインツを経て、友人のクラーヴァルに付き添われてイギリスを旅行し、ロンドンを経てスコットランドのオークニー諸島の人里離れた小屋で、もうひとりの人造人間を作ろうとします。
しかし、さらなる怪物の増加を恐れたフランケンシュタインはもう一人を作るのを止め、怪物の要求を拒否し、機器を海へ投げ捨てます。クラーヴァルは怪物に殺され、フランケンシュタインの方は海からアイルランド人の村に漂着するものの、クラーヴァルを殺した犯人と間違えられて牢獄に入れられます。
疑いが晴れて、故郷のジュネーヴに戻り、養女として一緒に育てられたエリザベスと結婚するものの、その夜、怪物が現れて彼女は殺されます。憎悪に駆られたフランケンシュタインは怪物を追跡し、北極海までたどり着くものの倒れ、ウォルトンの船に拾われました。
語り終えたフランケンシュタインは、怪物を殺すようにとウォルトンに頼み、船上で亡くなります。また、ウォルトンは船員たちの安全を考慮し、北極点到達を諦め、帰路につきます。創造主から名も与えられなかった怪物は、創造主の遺体の前に現れ、その死を嘆きます。そこでウォルトンに自分の心情を語った後、北極点で自ら焼け死ぬために北極海へと消えたのでした。
参考文献
・風間賢二『ホラー小説大全』
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