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大江健三郎『二百年の子供』解説あらすじ

大江健三郎
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はじめに

 大江健三郎『二百年の子供』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

タイムトラベルSF

 本作はタイムトラベルSFになっています。『万延元年のフットボール』など、キャリアの早い段階から時間や歴史というものを作品のテーマにしてきた大江健三郎らしい工夫と言えます。これによって土地の歴史が縦横に語られます。

 主人公の「三人組」は柴犬の「ベーコン」に導かれ、120年前に村の危機を救ったメイスケさんや、103年前のアメリカで生活する日本初の女子留学生(津田梅子)に会いに行きます。語られる村の歴史は『同時代ゲーム』などをふまえる内容になっています。

プラグマティックな歴史記述

 フレイザー『金枝篇』がT=S=エリオット『荒地』に導入されて以降、作家は語りの手法に民俗学、社会学的アプローチをも積極的に取り入れるようになっていきました。特に本作でも用いられているアナール学派的な、中央の事件史に抗する心性史としての歴史記述のアプローチは、ポストコロニアルな主題を孕みつつ、ガルシア=マルケス『族長の秋』『百年の孤独』などラテンアメリカ文学などとモードを共有します。

 旧来的な中央の事件史としての歴史記述においては、歴史の構造的理解に欠き、そこから捨象される要素が大きすぎましたが、アナール学派は特定のトポスに焦点を当てたり、ミクロなアクターの視点に注目したりして、歴史の構造的把握と、歴史を構成するアクターの単位の修正を図りました。本作も同様に、ミクロな歴史的アクターの一人称的視点に着目しつつ、その集積物として歴史を構造的にとらえようとするプラグマティックな歴史記述のアプローチが見えます。

児童文学

 本作は児童文学としてデザインされています。トウェイン(『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』)を源流とするアメリカのユーモア小説、児童文学、またプーさんのA.A.ミルンなどへの関心がここには伺えます。 

 大江健三郎は『静かな生活』『僕が本当に若かった頃』などにおいて、ミルンへのオマージュが見えます。父を敬愛しつつも息子との関係に悩んだミルンの存在は、『個人的な体験』以降、苦悩する父であり続けた自分と重なる部分があるのだと思われます。

物語世界

あらすじ

 物語の主人公は、小説家を父にもつ3人のきょうだいです。養護学校に通う長男で18歳の真木は音楽に才能があり、中学2年生の長女あかりはそんな兄を大切に思い、中学1年生の朔は二人を支えます。

 彼ら「三人組」は、父の生まれ故郷の四国の森に伝わる「童子」と呼ばれる特別な子どもが、地元の人が「千年スダジイ」と呼ぶシイの木のうろの中に入って行きたい場所をねがいながら眠ると、その場所に行くことができるという伝説を知ります。三人は夏休みのあいだ「森の家」に滞在し、父の友人であるムー小父さんの助けで、去年亡くなった祖母に会うためにうろの中で眠ります。

「三人組」は柴犬の「ベーコン」に導かれ、120年前に村の危機を救ったメイスケさんや、103年前のアメリカで生活する日本初の女子留学生に会いに行きます。

 2064年は現在よりもひどい世界でした。その世界の子どもたちは、抑圧者によって洗脳教育を受けていました。過去を変えることはできないものの、未来を変えることはできます。それが「新しい人」としての、三人の仕事です。

参考文献

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)

 

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