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T=D=E=クライン『王国の子ら』解説あらすじ

T=D=E=クライン
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始めに

 T=D=E=クライン『王国の子ら』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

クラインの作家性

 ​クラインに最も決定的な影響を与えたのは、ウェールズ出身の作家アーサー=マッケンです。クラインの代表作『セレモニー』は、マッケンの傑作短編「白い人々」を下敷きにしています。日常のすぐ裏側に潜む太古の邪悪な力や、異教的な儀式、都会の路地裏に潜む神秘といったテーマを継承しています。またラブクラフトのコズミックホラーからも影響があります。


​ ​イギリスの古物収集家・学長であったM.R.ジェイムズの幽霊譚の手法も、クラインの文体に深く根ざしています。古い書物や古物の中に潜む恐怖という骨董趣味的な恐怖演出や、読者の想像力に訴えかけるじわじわとした緊張感は、ジェイムズの伝統を継いでいます。自然界に潜む人知を超えた巨大な存在や、畏怖の念を呼び起こす描写においては、ブラックウッドの自然怪奇の影響が見て取れます。クラインの文章の格調高さや、どこか寓話的で詩的なリズムは、ダンセイニ卿の影響を指摘されることもあります。

停電。クトゥルフ

 特徴は、1977年のニューヨーク大停電を背景にしている点です。現代文明がいかに細い糸一本で支えられているか描きます。電気が消えた瞬間、近代的な大都市は一気に原始的な闇へと逆戻りします。クラインは、テクノロジーという鎧を剥ぎ取られた人間がいかに無力で、太古から続く闇への恐怖に対して無防備であるかを強調しています。


​ ​ラヴクラフト的なクトゥルフ神話の系譜を継ぎつつ、それを都会のど真ん中に持ち込んだ点が画期的です。人類以前から地球に存在した異形のものとの遭遇が描かれます。マンハッタンの地下道や建物の隙間に、人類とは異なる進化を遂げた王国の子らが潜んでいるという設定です。彼らは忘れ去られた神話の存在ではなく、現代の都市構造そのものに寄生して生きているというリアリティが恐怖を煽ります。

朦朧法

 クラインの筆致は非常に緻密で、物語の大部分は一見退屈な日常の描写に割かれます。忍び寄る浸食と、気づいた時には手遅れであるという絶望。老人の語る奇妙な昔話、路地裏で見かける不審な影、友人たちの失踪といったこれら小さな断片が積み重なり、最後には逃れられない巨大な恐怖へと変貌します。少しずつ世界が変質していく感覚こそが、クライン文学の真骨頂です。


 ​大都会ニューヨークという場所自体が、もう一つのテーマになっています。隣人が消えても誰も気づかない、都会特有の疎外感が描かれます。王国の子らが獲物を狩る際、都会の無関心が彼らにとって絶好の隠れ蓑になります。怪物は超自然的な存在であると同時に、社会から見捨てられた人々や、都会の闇に紛れる犯罪者のメタファーとしても機能しています。

物語世界

あらすじ

 ボストンで就職面接を終えた名もなき語り手が、深夜のバスで帰宅する場面から始まります。窓の外には荒廃したニューヨークの街並みが広がり、自分のアパートのすぐ近くに貧困層の住む崩れかけたテナントが立ち並んでいます。

 語り手の祖父ハーマン・ラウターバッハが脳卒中を起こし、「パーク・ウェスト・マナー・フォー・アダルツ」というやや薄暗い老人施設に入居することになります。施設の周辺にはストリートの人々が集まっており、中でも南米出身の聖職者父ピスタチオと呼ばれる人物が重要な役割を担います。彼は常にピスタチオを噛んでいることからそのあだ名がついており、考古学・神話・トマスの福音書を基にした奇妙な著作を英訳中です。


 やがて語り手はその著作を読み、ラヴクラフト的な秘密の世界の存在を感じ始めます。施設内では奇妙な出来事が続きます。住民の一人が性的暴行を受け、アパートに不気味な手形が残されます。語り手は下水道から侵入した何者かがいると警察に訴えますが、相手にされません。


 ピスタチオの説によれば、人類の最初の都市は、神に三度呪われた者たちに侵略されました。神はまず彼らの女性を不妊にし、次に男性の性器を奪い、そして盲目にしました。呪われた者たちはその外見がサナダムシを思わせるとされており、語り手はその絵を見て恐怖を覚えます。


 物語は1977年7月13日、ニューヨーク市の大停電の夜に頂点を迎えます。祖父ハーマンが地下の洗濯場に向かい、停電の際にエレベーターに閉じ込められます。語り手は彼を探す途中で、地下から現れたサナダムシ状の呪われた者たちに囲まれます。街は暴動と略奪が起き、その混乱の中、語り手の妻カレンが帰宅しますが、自宅で呪われた者の一人に暴行されてしまいます。カレンはその後、堕胎を選びます。


 物語の最後、語り手は夜に誰かに見られている感覚を初めて覚えます。下水道の格子からは赤い目が光り、そばにはピスタチオの袋が落ちています。それが呪われた者なのか、停電の夜に姿を消したピスタチオ神父が変貌したものなのかは明かされません。

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