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ヨーゼフ=ロート『聖なる酔っぱらいの伝説』解説あらすじ

ヨーゼフ=ロート
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始めに

 ヨーゼフ=ロート『聖なる酔っぱらいの伝説』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロートの作家性

 ロートはオーストリア=ハンガリー帝」への郷愁を抱えながら、亡命生活の中で筆を振るった作家です。ロートが最も愛し、自らを重ね合わせたのがハインリヒ=ハイネです。 二人ともユダヤ系ドイツ語作家であり、政治的な理由でパリへ亡命した共通点があります。ロートは、ハイネの持つ皮肉と叙情性、孤独を継承しました。
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またロートはバルザックやフローベール、ドストエフスキーのような19世紀の古典的なリアリズムを重んじました。ロートはジャーナリストとして東欧を広く旅したため、ゴーゴリやチェーホフにも共感しました。
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​同時代の作家であり、経済的・精神的支柱だったのがシュテファン=ツヴァイクです。二人は膨大な手紙をやり取りしました。

酔っ払いの奇跡

​ 主人公アンドレアスは、自堕落で、意志が弱く、手に入れた金をすぐに酒や女に使ってしまいます。しかし、なぜか奇跡は繰り返し彼に訪れます。救済は、立派な人間だから与えられるのではなく、最も無力で惨めな者にこそ降り注ぐという、キリスト教的な恩寵の概念が描かれています。
​ 彼が「聖なる」とされるのは、徳が高いからではなく、純粋に奇跡を受け入れ、最後に約束を果たそうとするその無垢さにあります。


​ ​アンドレアスは決して悪人ではありません。彼は常に借金を返さなければという良心を持っています。借金を返そうとするたびに、古い友人や酒の誘惑に負けてしまう姿は、人間の弱さを象徴しています。しかしどんなに落ちぶれても、借りたものは返すという一点において、自分自身の尊厳を守ろうともがきます。

​ 橋の下で暮らすアンドレアスは、当時のヨーロッパで居場所を失った亡命者や放浪者の象徴でもあります。ロートはこの作品を書いた後にアルコール依存症で亡くなっています。物語全体に漂う死の予感と穏やかな諦念は、自身の人生の終焉と重なります。

物語世界

あらすじ

 舞台は1930年代のパリ、セーヌ河畔です。

​ 主人公は、橋の下で暮らすホームレスの男、アンドレアス。元々は炭鉱夫でしたが、ある事件をきっかけに落ちぶれ、アルコールに溺れる日々を送っていました。
 
 ​ある日、彼の前に一人の紳士が現れ、「200フランを受け取ってほしい」と申し出ます。困惑するアンドレアスに対し、紳士は​「返す気があるなら、いつか余裕ができた時に、バティニョールの教会にいる『リジューの聖テレーズ』の像に捧げてくれればいい」と言います。

​ ​アンドレアスは、この恩義を返そうと決意します。しかし、仕事が見つかり、200フランを貯めたのに、偶然再会した昔の恋人と豪遊してしまい、金は消えます。
​ 突然、財布を拾ったり、古い友人に金を返されたりと、なぜか彼のもとには「奇跡」のように次々と金が舞い込んできます。しかしその度に、彼は酒の誘惑に負けたり、悪い友人にそそのかされたりして、教会へ行く途中で一文無しに戻ってしまいます。
​ その後、ついに彼は200フランを手に、バティニョールの教会へと辿り着きます。
 ​そこで彼は、一人の少女に出会います。彼はその少女を、約束の相手である聖テレーズその人だと思い込みます。極限の状態にあったアンドレアスの心は、その瞬間に救済を見出したのです。

 ​彼は少女に金を渡し、そのまま安らかな最期を遂げます。

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