始めに
カルヴィーノ『見えない都市』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
カルヴィーノの作家性
カルヴィーノのキャリア後半において最も重要な影響を与えたのが、フランスの実験的文学集団ウリポ(潜在的文学工房)の創設者、レイモン=クノーです。形式的な制約を設けて小説を書く「コンビナトリア(組み合わせ)」の手法などを継承します。『宿命の交わる城』や『もし一人の冬の夜の旅人が』に見られる構造は、クノーとの交流から生まれました。
またボルヘスも、形式主義的実験において影響があります。加えてカルヴィーノはイタリア文学の伝統、特にルネサンス期の詩人アリオストを熱愛していました。『狂えるオルランド』に見られる、軽やかさ、皮肉を継承しました。
他にもカフカ、スティーブンソンのロマン主義の影響があります。
それからカルヴィーノは天文学者ガリレオを散文家として高く評価していました。他にもプロップの昔話の構造分析から影響があります。
カルヴィーノは『アメリカ講義(文学の六つのメモ)』の中で、これからの千年紀に残すべき価値として「軽やかさ」「速さ」「正確さ」などを挙げていますが、これらは彼が愛した上記の作家たちの美質でもあります。
タイトルの意味
マルコ=ポーロが皇帝クビライ=ハンに語って聞かせる55の都市の物語は、都市という形を借りた人間精神の地図のようなものです。
カルヴィーノにとって、都市はレンガや石でできているのではなく、住む人の記憶や欲望によって形作られるものです。都市は、そこに住む人々が何を求め、何を忘れたいのかを視覚化した象徴として描かれます。
マルコ=ポーロは最初、言葉が通じないため身振りや品物を使って報告します。これは記号が実体を正しく指し示せるのかという問いです。クビライがチェス盤の駒の動きに都市の運命を読み取ろうとするシーンは、世界を抽象的な記号の組み合わせとして捉える姿勢が見えます。
語りの構造
物語の舞台は、13世紀。モンゴル帝国の老いた皇帝クビライ=カンと、ヴェネツィアの若き探検家マルコ=ポーロが、帝国の広大な庭園で交わす対話によって進んでいきます。
この本は、11のカテゴリーに分類された55の都市が数学的構成(マトリックス)に基づいて配置されています。
各都市は以下の11のテーマ(都市と記憶 / 都市と欲望 / 都市と記号/薄い都市 / 都市と取引き / 都市と眼/都市と名 / 都市と死者 / 都市と空/連なる都市 / 隠れた都市)に分かれてこれらが交互に現れます。
クビライ(理性)とマルコ(想像力)の対話は、この世界の構造化を巡る知的探求です。
物語世界
あらすじ
物語の舞台は、13世紀。モンゴル帝国の老いた皇帝クビライ=カンと、ヴェネツィアの若き探検家マルコ=ポーロが、帝国の広大な庭園で交わす対話によって進んでいきます。
クビライは、自分の広大な帝国が崩壊に向かっていることを悟り、虚無感に苛まれています。そこで彼は、異邦人であるマルコに、彼が巡ってきたはずの帝国内の都市について語らせます。
マルコが語る都市は、全部で55あります。それらは「都市と記憶」「都市と欲望」「都市と記号」「薄い都市」といった11のカテゴリーに分類され、断片的に語られます。 蜘蛛の巣のように吊り下げられた都市、住民が毎日入れ替わる都市、死者と生者が共存する都市など、どれも物理法則を無視したような幻想的な光景ばかりです。
物語の中盤、クビライは「お前は一度も故郷のヴェネツィアについては語らないな」と指摘します。マルコは「私が語る都市は、すべてヴェネツィアの断片なのです」と答えます。
作品の最後、クビライは結局、すべては崩壊して地獄(廃墟)に向かうのかと嘆きます。それにマルコは、「生者の地獄とは、これから来るべき何かのことではありません」「地獄の中で地獄でないものを見つけ出し、それを永続させること、それに場所を与えること、それだけです」とこたえるのでした。




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