始めに
シャーロット=ブロンテ『ヴィレット』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロマン主義
ブロンテ姉妹は、イギリスのロマン主義を代表する作家です。
シェイクスピア、バイロン、スコット、ワーズワースなどのロマン主義からそのロマン主義を形成していきました。
マイノリティーである女性の視点から、その心理や主体的な行動を描くリアリズムがシャーロットの作風です。
またホフマンのロマン主義、幻想文学の影響も顕著で、本作もゴシック文学風味の演出が垣間見えます。
ゴシック文学
本作はゴシック文学からの影響が顕著です。イギリスの作家ホレス=ウォルポールの『オトラント城奇譚』(1764年)がゴシック小説の先駆となり、以降流行になりました。ウォルポールは別荘のストローベリ=ヒル=ハウスを改築して中世ゴシック風のゴシック=リバイバル建築にし、自分の夢をもとに中世の古城を舞台にした幻想的な小説『オトラント城奇譚』を書いて、古典主義建築や中世趣味など、ゴシック=リヴァイヴァルとブームを生みました。
物語のなかで、語り手ルーシーはイギリスからヴィレットに移ります。ゴシック様式の町ヴィレットで物語の大部分が展開します。ヴィレットはブリュッセル市をモデルにしており、架空のフランス語圏の王国ラバセクール (ベルギーがモデル) を舞台にしています。
またマダム=ベックの寄宿学校では幽霊らしきものが現れるなど、ゴシック的テイストが濃厚です。
伝記的背景
1842年、26歳のシャーロット=ブロンテは、姉のエミリーとともにベルギーのブリュッセルへ旅しました。そこで、二人はコンスタンティン=ヘーガー夫妻が経営する寄宿学校に入学します。食事と授業料の代わりとして、シャーロットは英語を、エミリーは音楽を教えました。
姉妹のペンションでの暮らしは、叔母のエリザベス=ブランウェルが1842年10月に亡くなったことで短くなります。
シャルロットは1843年1月に一人でブリュッセルに戻り、寄宿学校で教職に就きました。シャルロットはホームシックになり、既婚のヘーガー氏と恋に落ちました。彼女は最終的に1844年1月にイギリスのハワースにある家族の牧師館に戻りました。
語りの構造
本作は信頼できない語り手のルーシーが設定されていて、それがサプライズやゴシック的効果を生んだりしています。
語り手のルーシーに情報が限定されているため、幼馴染のグラハムとドクター=ジョンが同一人物だと、読者にも伏せられています。
またルーシーが目の当たりにした寄宿学校に現れる修道女の幽霊や、ラストの含みのある朦朧とした語りは、ゴシック的趣味を演出します。
物語世界
あらすじ
ヴィレットは、主人公で 13 歳の語り手ルーシー=スノーが、イギリスのブレトンにあるブレトン夫人の家に滞在するところから始まります。ブレトン夫人の 10 代の息子、ジョン=グラハム=ブレトン (グラハム) と、6 歳の幼い、ポーリーナ・ホーム (ポリー) も一緒に住んでいます。ポリーの母親は娘をないがしろにしていたものの、最近亡くなり、父親は医師から精神を回復させるために旅行するよう勧められました。そこでブレトン夫人はポリーを滞在させるよう提案しました。
ポリーはすぐにグラハムに愛情を抱くようになり、グラハムも彼女に愛情を注ぎます。しかしポリーの父親が海外で一緒に暮らすよう彼女を呼びにやって来たことで、滞在は終わります。
ルーシーはポリーが去ってから数週間後にブレトン夫人の家を去ります。数年が経ち、悲劇によりルーシーは家族も家も財産も失いませ。やがてリウマチで身体が不自由なマーチモントに介護者として雇われます。ルーシーはすぐに仕事に慣れ、静かで質素な生活に満足します。
嵐の夜、マーチモントは元気を取り戻します。マーチモントはルーシーに 30 年前の悲しい恋の話を語ります。マーチモントは死が亡くなった恋人と再会させてくれると信じています。翌朝、ルーシーはマーチモントが夜中に亡くなっているのを発見します。
その後、ルーシーはイギリスの田舎を離れ、ロンドンへ向かいます。22歳のとき、フランス語をほとんど話せないにもかかわらず、ラバセクール行きの船に乗り込みます。船上で、ジネヴラ=ファンショーと出会い、ルーシーが通っている女子寄宿学校の校長であるマダム=ベックのことを知ります。
ルーシーは、マダム=ベックの学校があるラバセクールのヴィレット市へ向かいます。しばらくして、ルーシーは学校で英語を教える仕事に雇われ、さらにマダム=ベックの3人の子供の世話もすることになります。
ハンサムなイギリス人医師ドクター=ジョンは、マダム=ベックの命令で学校を頻繁に訪れ、ジネヴラ=ファンショーへの愛情を深めます。ドクター=ジョンは後にジョン=グラハム=ブレトンであることが明らかになります。
学校の休暇中、教師と生徒は全員海外旅行に出かけるか、家族の元へ帰っていました。学校には、ルーシーが世話をすることになっている障害のある子供だけがいました。
ルーシーは極度の孤独を感じ、精神的にも肉体的にも衰弱します。ルーシーはプロテスタントですがカトリック教会に行き、司祭に告解します。学校に戻る途中、熱と精神的疲労のために倒れてしまいます。ジョン医師はルーシーを、母親のブレトン夫人と暮らす自宅に連れて行きます。
グレアムは、ルーシーがブレトン夫人の家に連れてこられて初めて、ルーシーだと気づきます。ジョン医師 (グレアム) は劇場でジネヴラに幻滅し、他方でルーシーとは親友になります。ルーシーは控えめな性格ですが、この友情を大切にします。ルーシーはすぐにジョン医師に好意を抱き、ペンションナットに戻ってからグレアムから送られてくる手紙を大切にします。
ルーシーとグラハムは、同じ劇場で火事で負傷したポリー と再会します。ポリーの父親は「ド=バッソンピエール」の称号を継承し、現在は伯爵です。そのため、彼女の名前はポーリーナ=マリー=ホーム=ド=バッソンピエールです。ポリーとグラハムは恋に落ち、最終的に結婚します。
ルーシーは、同僚で、短気で独裁的で対立的な教授である、ベック夫人の親戚であるポール・エマニュエル氏と次第に親しくなります。ルーシーは、彼の表面的な敵意が、実は自分の弱点を克服し、成長するのに役立っていることに徐々に気づきます。彼女とポールはやがて恋に落ちます。
しかし、ベック夫人、シラス神父、ポール氏の亡き婚約者の親族などは、カトリックとプロテスタントの結婚は不可能だという理由で、二人を引き離そうとします。そしてポール氏をグアドループの農園の監督に向かわせることにします。それでもポール氏は出発前にルーシーへの愛を告白し、彼女が自分のデイスクールの校長として自立して暮らせるように手配します。ルーシーは後にその学校をペンションに拡大します。
マダム=ベックの寄宿学校で、ルーシーは修道女の幽霊らしきものに遭遇します。それは、貞潔の誓いを破った罰として学校の敷地内に生き埋めにされた修道女の幽霊なのかもしれません。
またルーシーは自分のベッドで「修道女」の修道服を見つけます。それはジネーヴラの愛人アルフレッド=ド=アマルがいたずらでルーシーのベッドに置いたものだったことが分かります。ジネーヴラは手紙を通じてルーシーと連絡を取り合っており、叔父バソンピエールの好意に頼って生きていくつもりであるといいます。
終盤の展開は多義的に解釈できるのですが、ポール氏の船が西インド諸島からの帰途の嵐で破壊されたと示唆します。そしてポールが嵐によって溺死したことを示唆しています。
参考文献
・青山 誠子 (著)『ブロンテ姉妹』




コメント