はじめに
フロベール『聖アントワーヌの誘惑』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロマン主義、古典主義、ルネサンス文学の影響
フローベールはロマン主義や古典主義、ルネサンス文学に傾倒しつつも、自身はそこから写実主義を展開したと説明されます。オースティン(『傲慢と偏見』)がリチャードソンの影響から風刺作品を展開したのと似ているでしょうか。
とはいえロマン主義(ゲーテ[『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)]、ユゴー[『レ・ミゼラブル』]、シェイクスピア)、古典主義(ヴォルテール)、ルネサンス文学(ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』)のリアリズム描写や主題はフローベールに継承されていますし、それが公共圏へのコミットメントの中での自己実現を巡る作品であるという点ではそうした作品からの影響が濃厚です。
本作は特にロマン主義的なテイストが濃厚で、聖アントニウスを描いています。
ゲーテ『ファウスト』。生の哲学
本作もゲーテ『ファウスト』の影響を伺わせます。
ゲーテ『ファウスト』では、学級と人生に絶望したファウストが主人公になっていて、メフィストフェレスとの駆け引きの果てに、人生の意味を、永遠に続いてほしい瞬間を、ようやく見出します。
本作は聖アントニウスが砂漠でさまざまな悪魔の誘惑を受け、ファウストのようにさまざまな世界を幻視という形で彷徨し、やがては太陽の円輪にキリストの姿を見いだして救われまでを描きます。
聖アントニウス
聖アントニウスはエジプトのコーマで生まれ、両親にキリスト教徒としての教育を受け、両親の死後に財産を貧しい者に与え、砂漠で苦行生活を送りました。305年頃、アントニオスが町で行った説教に感銘を受けた修道僧らと開いたのが修道院の始まりで、このため修道士の祖とされます。
エジプトの東砂漠滞在中にアントニウスが超自然的な誘惑をうけたというエピソードがありこれはしばしばアートの対象となり、本作もそうした文脈を踏まえています。
創作背景
このモチーフは幼少時から人形劇などでフロベールが親しんでおり、1845年、ジェノヴァのバルビ宮殿でピーテル=ブリューゲルの手による『聖アントニウスの誘惑』を見たことで直接の創作の契機になりました。
それから三度の改稿を経て、本作はは成立しました。
語りの構造
聖アントニウスが、テーベの山頂の庵で古今東西の様々な宗教、神話の神々や魑魅魍魎の幻覚による誘惑を経験し苦悩するものの、やがて昇りゆく朝日にキリストの顔を見出すまでを、対話劇によるスタイルで描いています。
ゲーテ『ファウスト』のような戯曲的スタイルのようでもあり、散文詩のようでもあります。
物語世界
あらすじ
エジプトの砂漠での隠遁生活に不満を抱いていたアントニウスは、自分の若さと自分の役割を思い出します。自分の人生の選択についての疑念から気を紛らわそうとします。
アントニーの元教え子ヒラリオンが現れ、禁欲生活の偽善を嘲笑し、アントニーは教会の教義が唯一の真実の源であると主張する一方で、時として矛盾する教義を解体します。ヒラリオンはその打開策として、研究と科学の自由を提供しようとします。
やがてアントニーは、排他的な正当性を主張する多数のキリスト教の宗派 (マニ教、アリウス派、モンタニストかど) に直面します。
ヒラリオンに導かれ、アントニウスは過去の宗教や他の民族と出会うものの、やがてヒラリオンは悪魔であり知識であるとアントニウスは特定します。
悪魔であるヒラリオンはアントニーを翼に乗せ、世界の無限を見せ、物質の神性をつたえます。
朝になると、アントニウスは自殺を考え、生と死の間の誘惑をさまよいます。
結局、アントニウスは太陽の円輪にイエス=キリストの顔を見いだし、祈りを再開します。
参考文献



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