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大江『河馬に嚙まれる』解説あらすじ

大江健三郎
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始めに 

 大江『河馬に嚙まれる』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

語りの構造とテーマ

 本作は大江健三郎の分身である語りてのOを設定しています。高名な作家で、さまざまなことに巻き込まれていきます。

 この短編集は連作「河馬に嚙まれる」「「河馬の勇士」と愛らしいラベオ」「河馬の昇天」「生の連鎖に働く河馬」と独立しているものの、学生運動や私刑など共通するモチーフを描く他の作品をはらむ内容です。
 タイトルにも見えるエリオットの詩「河馬」をモチーフにしています。エリオットはイギリス国教会で洗礼を受けたのですが、「河馬」も宗教的内容です。

The Hippopotamus T.S. Eliot

The broad-backed hippopotamus

Rests on his belly in the mud;

Although he seems so firm to us

He is merely flesh and blood.

Flesh-and-blood is weak and frail,

Susceptible to nervous shock;

While the True Church can never fail

For it is based upon a rock.

The hippo’s feeble steps may err

In compassing material ends,

While the True Church need never stir

To gather in its dividends.

The ‘potamus can never reach

The mango on the mango-tree;

But fruits of pomegranate and peach

Refresh the Church from over sea.

At mating time the hippo’s voice

Betrays inflexions hoarse and odd,

But every week we hear rejoice

The Church, at being one with God.

The hippopotamus’s day

Is passed in sleep; at night he hunts;

God works in a mysterious way–

The Church can sleep and feed at once.

I saw the ‘potamus take wing

Ascending from the damp savannas,

And quiring angels round him sing

The praise of God, in loud hosannas.

Blood of the Lamb shall wash him clean

And him shall heavenly arms enfold,

Among the saints he shall be seen

Performing on a harp of gold.

He shall be washed as white as snow,

By all the martyr’d virgins kist,

While the True Church remains below

Wrapt in the old miasmal mist.

「だだびろい背中を負ふた河馬のやつ/泥沼にお腹を押しあて揺ぎもない、/よそ目にはとてもがつちりしてゐるみたいで/このやつ、肉と血ばかりのかたまりだ。//肉と血は弱いもの、脆いもの/神経の衝撃がぴんと応へる、/ところで真の教会はいつかな動ぜ1ぬ/岩を礎に立つてゐる。〉〈「小羊」の血潮は河馬を洗ひ/天使のもろ腕、此奴を抱かん、/聖人さまに仲間入りして/黄金の竪琴を搔きならさん。//雪の白さにさつぱり洗はれ/殉教の処女らは接吻せん、/真の教会は下界を根城にいつかな動ぜぬ、/相ひも変らぬ瘴気の霧に包まれながら。」

『河馬に噛まれる』

 といった内容で、ここでカバは怠惰で自然の欲求赴くままなのですが、エリオットはそのカバと教会を対比して、自然のままに生きるカバを肯定し、堕落した教会を批判しています。カバはやがて翼を得て、天に導かれています。

 大江は本作でこの「河馬」の詩を、学生運動における組織論的テーマと結び付けて展開していて、これは『燃え上がる緑の木』などと共通です。教会は本作では学生運動における党派の象徴と捉えられていて、それよりもむしろ河馬のように、自由にあるがままに生きて、他者や自分を集団のために犠牲にしたりせず、まず個人の生に立脚しようとする姿勢を肯定しています

学生運動の悲劇

 大江文学の特徴ですが、本作は新左翼の運動のネガティブな面に焦点をあてた作品が多いです。

 『「浅間山荘」のトリックスター』では、ユウジーン・山根に浅間山荘事件をもとにした映画の脚本を書かないかといわれ、そして浅間山荘事件において警察と籠城者の仲介役をしようとして殺された男性を題材にすることにします。『洪水はわが魂に及び』などにもこの事件の影響があります。

 「四万年前のタチアオイ」は僕の従妹タカチャンのことを描きます。彼女は大学の研究者で、学生紛争で頭を打ち精神を病みました。従妹タカチャンは『僕が本当に若かった頃』の「茱萸の木の教え・序」にも出てきます。彼女は新左翼の活動の悲劇的犠牲者になっています。

 「死に先だつ苦痛について」は、ケチャンという年少の友人が政治運動の結社をつくったあと、ハイ・ジャックを企んだものの、暴露しようとしたキイッチャンを殺してしまいます。タケチャンは癌で入院し、苦痛の中で事件の告白をしながら死にます。多くの作品で描かれる新左翼の活動による加害の罪とトラウマの話です。

 

物語世界

あらすじ

 「河馬に嚙まれる」/「「河馬の勇士」と愛らしいラベオ」/「河馬の昇天」/「生の連鎖に働く河馬」

 作家である語り手Oの学生時代に面倒をみてくれた女性の息子が、「穴ぼこに落ちる」ように17歳で連合赤軍事件に関わってしまったとこがありました。そのとき獄中の息子を助けてほしいと女性に頼まれて、Oはその息子と手紙を交換したことがありました。

 1980年代に入り、Oはその息子「河馬の勇士」がウガンダの自然公園で河馬に嚙まれて重症を負い、回復して働いているというニュースを知り、そのことを短編に書いたのでした。

 短編を読んだ石垣ほそみという若い女性がOを訪ねて「河馬の勇士」の連絡先をききます。ほそみの姉、石垣しおりは連合赤軍事件に関わって山岳ベースで処刑されました。ほそみは、エリアーデの日記を踏まえて、連合赤軍に関わっていた人たちは「未来のパラダイス」をあきらめたようだが、それなら姉の死は報われないのではないかと言います。ほそみはそこで「河馬の勇士」と話したいそうです。

 Oに「河馬の勇士」の連絡先を尋ねたほそみは、アフリカで「河馬の勇士」と出会います。姉の死に意味を与えたいほそみは、エリオットの詩「河馬」に絡めて、連合赤軍事件は破綻したものの、教会は残っているし、自分の姉も、その教会の側にあると考えます。それに対して「河馬の勇士」は、自分は苦しい所をなんとかみっともなく生き延びた河馬の方ががいい、他人や自分を殺して教会を後に遺すのはみっともないし、生きつづけるつもりでやれば自分らの理論のまちがいもわかる、と語ります。

 二人は惹かれあい、遂に結婚します。二人の関係、成り行きをOはほそみからの手紙で知り、連作短編に書いていきます。子供を宿したほそみと「河馬の勇士」が帰国して、O家族と交流します。ほそみは子供に、姉の名をとって、しおりとつけるのでした。

 しかし赤ん坊がダウン症と診断され、それでも若い二人は精神的に強く、前向きに物事を捉えます。彼らを見ていてOも「上向きの勢い」をあたえられるのでした。

「浅間山荘」のトリックスター

 僕はJ・N(ジョン・ネイスン)の紹介だとしてあらわれたユウジーン・山根に浅間山荘事件をもとにした映画の脚本を書かないかといわれます。そして浅間山荘事件において警察と籠城者の仲介役をしようとして殺された男性を題材にすることにします。

 しかし資金提供者であるユウジーンが禁治産者になり計画は破綻しました。

四万年前のタチアオイ

 中国吐魯番へ女優Y・Sさん(吉永小百合)を含む文化人一団として出かけた旅先で、Y・Sさんのファンであった僕の従妹タカチャンのことを思いだします。彼女は大学の研究者で、学生紛争で頭を打ち精神を病みました。

 シルクロードの城址の幻想的な光景のなかで、僕はタカチャンの願った、汚辱と恐怖と絶望のうちに殺された娘たちの、死そのものが正しく、かつ人間的に美しいと証明される世界を夢想します。

死に先だつ苦痛について

 長男が生まれた頃、僕を「あにさん」と呼んで慕ってくるタケチャンという年少の友人がいました。タケチャンは大学に遅れて入学して全共闘運動に参加し、その後旅行会社で成功します。

 政治運動の結社をつくったタケチャンは荷物カルト運動を前進させるためのハイ・ジャックを企んだものの、暴露しようとしたキイッチャンを殺してしまいます。

 タケチャンは癌で入院し、苦痛の中で事件の告白をしながら死にます。

サンタクルスの「広島週間」

 カリフォルニア大学サンタクルス校で「広島週間」の講演をします。

 そこに訪ねてきた女性との会話から、若い頃の酒・睡眠薬絡みの事件を思い出します。

参考文献

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)

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