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ヴォネガット『スローターハウス5』解説あらすじ

カート=ヴォネガット
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始めに

 ヴォネガット『スローターハウス5』解説あらすじを書いていきます。

 

背景知識、語りの構造

トウェイン、ビアスの影響

 ヴォネガットは、マーク=トウェイン(『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』)やアンブローズ・ビアスという作家からの影響が顕著です。

 トウェインは口語的でエネルギッシュかつリズミカルな語りと、ペーソスを特徴とします。本作も、砕けた口語的な語でありつつも、ペーソスある物語を展開していきます。

 またトウェインやビアスのシニカルな風刺性は、ヴォネガットに影響しています。

 本作はヴォネガットの好んだビアス「アウルクリーク橋の出来事」とも内容的に重なります。これはアメリカ南北戦争中、裕福な農園主で奴隷所有者でもある民間人のペイトン・ファークワーは、アラバマ州の鉄道橋で絞首刑に処される準備を整えていて、処刑されるまでの間に主観的なタイムトラベル、意識の流れの中で過去や妄想のなかを縦横に移ろっていて、最後は処刑されます。

 本作の語り手はビリー・ピルグリムで、特別な能力によって自分が死ぬ場面を経験し知っています。

意識の流れSF

 本作は意識の流れに似た手法で展開されます。

 モダニズム文学に典型的な手法が意識の流れです。ジョイス『ユリシーズ』、フォークナー『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)などに見える意識の流れの手法は、現象学(フッサール、ベルクソン)や精神分析などの心理学、社会心理学、プラグマティズム的な知見を元に、伝統的な小説にあった一人称視点のリアリズムをラディカルに押し進めたものでした。意識的経験の時間軸のなかでの全体性を描きます。

 人間の意識的経験やそれにドライブされる行動は、時間軸の中で全体性を持っています。主観的な時間の中で過去と現在と未来とは、相互に干渉し合って全体を形作っていきます。過去の経験や知覚が因果になり、さながら一連の流れとも見えるように、意識的経験は展開されます。こうした時間論的全体性を描くのが意識の流れの手法です。現実の社会における実践はこのような個々のエージェントの主観的経験が交錯するなかでその時間的集積物として展開されます。

 本作の語り手はビリー・ピルグリムで、ビリーは普遍的な時間の中に解き放たれます。飛行機事故で脳障害が起こり、どうもそれが原因で人生の瞬間を無作為に繰り返しているようです。こうしてビリーは主観的な経験の中で時間を縦横無尽にタイムトラベルし、物語を記述していき、さながらフォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)文学を連想させます。

 そしてビリーは特殊な時間経験を得て、また宇宙人のトラルファマドール人と交流したことで、特有の運命論を手に入れます。

運命悲劇

 本作のテーマはビリーが得たトラルファマドール人流の運命論に体現されます。

 トラルファマドール人はビリーと同じ、偏在する時間の中を生きていて、その哲学によれば、物事は今あり、これからも常に存在し、それを変えることは何もなく、自由意志もなく、ただ物事は常に起こるように運命づけられていたので起こる、と考えています。

 こうした宿命論的時間論は、ヴォネガットに影響したラプラスの悪魔や、そのほかにも二―チェの永劫回帰など、数多くあります。けれども物理学の方面では支持されていません。それであっても、自身もビリーと同様に戦争を経験し、そのトラウマに苛まれるヴォネガットにとって、「そうするより、そうなるより仕方なかった」という宿命論が、脳裏にフラッシュバックするさまざまなトラウマと後悔から自分を解き放ってくれるものであったのかもしれません

 カート・ヴォネガットは1944年、アメリカ合衆国第106歩兵師団第423普通科連隊の兵卒として第二次世界大戦の欧州戦線に参加し、バルジの戦いでコートニー・ホッジス率いる第1軍から第106歩兵師団が分断され取り残された12月19日に捕虜となり捕虜として1945年2月の同盟軍(英米の空爆部隊)によるドレスデン爆撃を経験しました。そうしたトラウマに苛まれるヴォネガットは、宿命論に救いを見たのかもしれません。

オーウェル、ショーのリアリズム

 ヴォネガットはまた、オーウェル(『1984』『動物農場』)やショー(『ピグマリオン』)のシニズム、ペシミズムからも大きな影響を受けています。

 オーウェル(『1984』『動物農場』)のSF作品は、SF仕立ての内容の中に社会批判などを孕んでいますが、本作も同様です。

 ショーも寓意的で辛辣な諷刺作品を展開しましたが、本作も同様の精神を観て取れます。

物語世界

あらすじ

 第二次世界大戦中、米兵のビリー・ピルグリムは道に迷い、ドイツ兵に捕らえられ、ドレスデンの使われていない屠殺場の奥深くにある代用監獄で生活します。そしてなぜか、ビリーは時間の中に解き放たれます。飛行機事故で脳障害が起こり、人生の瞬間を無作為に繰り返しているようです。

 彼はトラルファマドール星からやって来た地球外生物に出会い、また誘拐されて星の動物園でポルノ映画スターのモンタナ・ワイルドハックとともに展示されたりします。トラルファマドール星人は、四次元(時間)を見ることができます。トラルファマドール星人はその人生のすべての瞬間を既に見ていて、運命を変えることはできないものの、自分が集中したいと思う人生の瞬間を選んで焦点を合わせられます。

 ビリーは時間の中を行き来し、人生の様々な場面を繰り返します。次に人生のどの場面が現れるのか分からないビリーはあがり症を感じるようになります。彼はトラルファマドール星やドレスデンで過ごし、第二次世界大戦中のドイツにいたり、戦後のアメリカで結婚生活を送っていたり、自分が撃たれて殺される瞬間にも向かいます。ビリーはトラルファマドール流の運命論を持っており、この哲学を多くの人々に広めて地球で有名になります。

 戦闘の間、仲間の兵士のローランド・ウェアリーによると、ビリーは戦闘に不向きで、そのせいで2人は捕虜となりました。ローランド・ウェアリーが、自身が捕虜になったことをビリーのせいにするので、ウェアリーの陰気な友人ラザーロは、ビリー・ピルグリムを殺す、と誓います。ラザーロは、復讐こそが人生における最も甘美なもの、と信じていました。

 ビリーはアメリカ合衆国が多くの小国に分裂した未来に、演説中にラザーロに撃たれて死にます。ビリーは演説中、演説が終わるとわたしは殺されるだろうと言います。そしてさらに、時間は3次元の切片に加わるもうひとつの次元であり、我々はその切片が同時に存在することを知っているのだから、誰もが常に生きており、死は悲しいものではないと、一同に伝えます。

参考文献

・チャールズ・J. シールズ『人生なんて、そんなものさ: カート・ヴォネガットの生涯』

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