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ジャック・フィニイ『ふりだしに戻る』解説あらすじ

ジャック・フィニイ
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始めに

 ジャック・フィニイ『ふりだしに戻る』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ジャック・フィニイの作家性

 ​フィニイは作家活動の初期、広告代理店に勤めながら『サタデー・イブニング・ポスト』などの雑誌に短編を寄稿していました。彼の軽妙な語り口や都会的なプロットには、当時人気を博したユーモア作家たちの影響が色濃く見られます。フィニイはロバート=ベンチリーのような、日常の些細な出来事を機知に富んだ文章で描くスタイルを好んでいました。緻密な語彙とシュールなユーモアを駆使するS=J=ペレルマンの影響は、フィニイの初期の短編における洗練された文体に反映されています。


 ​フィニイの代表作『時の崩壊』に見られるような、過去への執着と理想化は、アメリカ文学の伝統的なノスタルジーに基づいています。​過去を失われた楽園として描きつつ、科学技術への懐疑的な視線を向けるトウェインの姿勢は、フィニイのタイムトラベルものの精神的な土台となっています。


​ ​SF的な設定を扱いながらも、フィニイはそれを宇宙や未来ではなく現代の日常に持ち込むことを得意としました。『盗まれた街』に代表される異質な存在が平穏なコミュニティを静かに侵食していくというアイデアは、ウェルズの『宇宙戦争』などが確立したインベージョンの系譜を継いでいます。


​ ​特定の作家というよりも、彼が主戦場とした『サタデー・イブニング・ポスト』や『コロネズ』といった一般大衆誌の執筆陣全体のスタイルが、彼の読みやすさと質の高いエンターテインメントの両立に寄与しています。ほかに​ジョンいこーコリアーやロアルド・ダールの初期短編に見られるような、奇妙でひねりのあるプロットは、フィニイの短編の名作『レベル3』などと共通する空気感を持っています。

ノスタルジー

 テーマは、1880年代のニューヨークに対する圧倒的なまでの愛着です。主人公のサイモンが、現代の騒々しく無機質な生活に疲れ、馬車が行き交い、空気が澄んでいた時代のニューヨークに魅了されていく過程が詳細に描かれています。​フィニィの描くタイムトラベルは、複雑な機械を使うのではなく、その時代の服装をし、その時代の部屋に住み、精神を完全に同調させることで時間を超えるという独特な手法です。これは、歴史とは単なる情報の集積ではなく、人々の生活や空気感そのものであるという、人間中心のヒューマニズム的な視点がテーマになっています。


​ ​物語の後半では、政府のプロジェクトが自分たちの都合の良いように過去を書き換えようとするという側面が浮き彫りになります。歴史に干渉すべきか、それともあるがままを受け入れるべきか。個人の幸せと、人類の進歩のどちらを優先するか。そうした道徳的なジレンマがテーマとなっており、タイトルの「ふりだしに戻る」が持つ意味も、終盤のサイモンの決断と深く結びついています。

物語世界

あらすじ

 1970年のニューヨーク。広告会社でイラストレーターとして働くサイモン(サイ)=モーリーは、政府が極秘に進めているある実験への協力を要請されます。それは、薬物や機械を使わず、被験者の精神を過去の時代に完全に同調させることでタイムトラベルを実現しようとする、前代未聞のプロジェクトでした。


​ ​サイが選ばれた理由は、彼が古い写真や絵を愛し、過去を鮮明にイメージできる能力を持っていたからです。彼はタイムトラベルの拠点として選ばれたダコタ・ハウスの一室に住み込み、1882年の衣装をまとい、当時の生活を徹底的に模倣します。​やがて彼の精神は時空を超え、1882年1月のニューヨークへと降り立ちます。そこには、騒音も排ガスもない、馬車が走り石畳が続く、美しくも厳しい過去の世界が広がっていました。


​ ​サイの本来の目的は、ある謎めいた手紙の真相を追うことでしたが、彼はそこで若く美しい女性ジュリアと出会い、恋に落ちます。19世紀の生活に深く入り込むにつれ、サイは現代社会の喧騒よりも、この時代の空気感に強く惹かれるようになっていきます。​しかし、現代に戻ったサイを待っていたのは、プロジェクトの責任者たちの歴史を都合よく書き換えようとする冷徹な野心でした。


 ​プロジェクト側は、過去に干渉して現代の情勢を有利にしようと画策します。サイは、愛するジュリアと、彼女が生きる過去を汚されることに強い反発を覚えます。ついに彼は、ある重大な決断を下します。それは、プロジェクトそのものを根底から消し去り、自分もふりだし(1882年)に戻るという、二度と現代へは戻れない選択でした。

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