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ドライデン『驚異の年』解説あらすじ

ドライデン
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始めに

 ドライデン『驚異の年』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ドライデンの作家性

​ ドライデンにとって、ギリシャローマの古典は絶対的な美の基準でした。​ウェルギリウスはドライデンが最も崇拝した詩人です。彼はウェルギリウスをすべての詩人の師と呼び、晩年には『アエネイス』の全訳を完成させました。彼の英雄詩に対する考え方はウェルギリウスから強く影響を受けています。​オウィディウスからは物語詩の語り口や、洗練されたウィットにおいて影響を受けました。​ホラティウス、ユウェナリスからドライデンの風刺詩の鋭さは影響されています。


​ ​当時、チャールズ2世の王政復古に伴い、フランスの宮廷文化が流入しました。ドライデンはフランスの規則と秩序をイギリス文学に取り入れようとしました。ドラマにおける三一致の法則(時・場所・筋の統一)などの劇作術において、コルネイユの理論を深く検討しました。​ニコラ=ボアローとは理性と自然を重視する新古典主義の批評精神において共通点が見られます。


​ ​ドライデンは、先行するイギリス詩人たちを洗練されていないが天才的と評価し、彼らの遺産を整理しました。古典的な規則を重んじる姿勢において、ドライデンはベン=ジョンソンを最も正当な詩人と高く評価し、自らの劇作のモデルとしました。ドライデンはシェイクスピアを最大の魂と称賛しつつも、その奔放すぎる構成や言葉遣いを洗練が必要だとして、自らシェイクスピア劇の改訂版(『アントニーとクレオパトラ』を翻案した『すべては愛のために』など)を執筆しました。初期にはジョン=ダンの形而上詩の影響も見られますが、後にドライデンはダンの難解すぎる比喩を批判し、より明晰で平易なスタイルへと移行しました。


​ ホッブズの唯物論や社会契約説、そして秩序と権威を重視する思想は、ドライデンの保守的な政治詩や、人間の情念を冷静に観察する視点に影を落としています。

戦争と666

 大きな柱は、オランダとの海上戦闘の描写です。ドライデンは、海での勝利がイギリスの商業的繁栄と直結していると考えました。戦闘の細部や船舶の挙動を克明に描くことで、イギリス海軍の勇敢さと技術的優位性を強調しています。貿易路の確保こそがイギリスを世界の中心に押し上げると説き、海軍の勝利をそのための不可欠なステップとして正当化しました。


 ​1666年は本来、ヨハネの黙示録にある獣の数字(666)を含む不吉な年とされていました。しかしドライデンは、これを破滅ではなく浄化の試練として定義し直しました。ペストや大火、敗戦の危機を神がイギリスを見捨てた証拠とする批判勢力の清教徒などに対し、ドライデンは神がイギリスをより強固にするために与えた貴い試練であると主張しました。


 本来は悲劇的な年を「驚異(奇跡)」と呼ぶことで、壊滅的な状況から奇跡的に立ち上がる国家の強靭さを表現しています。

王権

 この詩は、王政復古から間もないチャールズ2世の指導力を賛美する強力な政治的メッセージを持っています。ロンドン大火の際、自ら消火指揮にあたったとされる王を国民の父として描き、民衆の苦難に寄り添う慈悲深いリーダー像を作り上げました。混乱を鎮める王の姿を、カオスから宇宙の秩序を創り出す神の姿に重ね合わせています。


​ ​詩の終盤で最も印象的なテーマは、焼け野原となったロンドンの再建です。灰の中からより美しく、より強固な石造りの都市として生まれ変わるロンドンを、伝説の鳥フェニックスに例えました。中世的な木造家屋の街が消え、科学と理知に基づいた近代的な大都市へと進化する希望を描いています。


​ ​ドライデンはこの詩を王立協会に献辞しています。航海術や造船技術、そして火災後の都市計画において、経験主義や科学的な知識が国家に貢献することを高く評価しています。自然の驚異を冷静に観察し、それを克服していく知性への信頼が底流にあります。

物語世界

あらすじ

 ​1666年は、その数字から世界の終末や災厄が予言されていました。詩は、オランダとの貿易摩擦と海上覇権を巡る緊張感から始まります。ドライデンは、この戦争を単なる争いではなく、イギリスの商業的自立をかけた神聖な戦いとして描き出します。


​ ​ここでは、1666年6月の「四日間の戦い」と7月の「聖ジェームズ日の戦い」が叙事詩的な筆致で詳述されます。アルベマール公やルパート親王といった指揮官たちの勇姿が称えられます。船の動きや砲撃の応酬が、当時の最新の航海術や軍事知識を交えて克明に描写されます。 激戦の末、イングランド艦隊がオランダを退け、制海権を握る様子が描かれます。


​ ​戦争の勝利に沸く間もなく、ロンドンの街を巨大な火災が襲います。火災は、街を食い尽くす残酷な怪物や略奪者として描写されます。プディングレーンから燃え広がり、聖ポール大聖堂までもが灰に帰す絶望的な光景が続きます。


​  混乱の中、チャールズ2世が登場します。王は自ら消火活動に加わり、民のために神に祈りを捧げます。この祈りが通じたかのように、ようやく恵みの雨が降り、火は鎮火します。​詩の最後は、未来への壮大な予言で結ばれます。焼けた木造の古い街並みは消え、大理石と石造りのより強固で美しい近代都市としてロンドンが再建される様子が語られます。災厄を乗り越えたイギリスは、以前よりも強力な海軍と商業網を持ち、世界の富が集まる中心地になると宣言されます。

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