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ウジェーヌ=スクリーブ『黒いドミノ』解説あらすじ

ウジェーヌ=スクリーブ
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始めに

 ウジェーヌ=スクリーブ『黒いドミノ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ウジェーヌ=スクリーブの作家性

 ウジェーヌ=スクリーブの劇作術、いわゆるウェルメードプレイ(ピエス・ビヤン・フェット)」の形成には、フランス喜劇の長い伝統が色濃く反映されています。その根底にあるのはモリエールの影響で、特に劇的な緊張感を生み出すための情報の出し入れや、偶然を必然に見せる緻密なプロットの組み方は、モリエールの喜劇的構造を近代的に洗練させたものと言えます。また、ボーマルシェからも大きな影響を受けており、複雑な陰謀が絡み合うスピーディーな展開や、機知に富んだ対話のテンポは、スクリーブが作品の娯楽性を高めるための重要なヒントとなりました。


 ​さらに、アランルネ=ルサージュなどのピカレスク的な社会観察や、当時のパリで隆盛を極めていたヴォードヴィルの伝統も欠かせません。ヴォードヴィル特有の軽快さと、観客の期待を裏切らないサービス精神を、スクリーブはより強固な論理性と結びつけました。これら先行する作家たちの技法を解体し、誰でも再現可能な劇作の公式へと再構築した点に、スクリーブの独創性があります。この手法は後にヴィクトリアン=サルドゥや、初期のヘンリック=イプセンにも受け継がれていくことになります。

仮面とアイデンティティ

 テーマは仮面によるアイデンティティの解放と、二重生活の緊張感にあります。物語は、修道院での厳しい戒律の中にいる貴族の娘アンジェルが、黒いドミノで身を包み、夜の仮面舞踏会へと密かに抜け出すことから始まります。ここで描かれるのは、社会的な身分や宗教的な義務という表の顔と、自由な恋愛や享楽を求める裏の顔との対比です。


 ​この作品において黒いドミノは単なる変装の道具ではなく、一時的に既存の道徳や社会的制約から逃れ、本音で行動することを可能にする自由の象徴として機能しています。しかし、その自由は常に正体が露見するかもしれないという時間制限付きのスリルと隣り合わせであり、スクリーブはこの緊張感を、巧みな誤解や偶然の再会、そして刻一刻と迫る修道院の門限といった要素で増幅させています。つまり、個人の情熱が組織の論理をいかにして出し抜くかという、スリリングな知恵比べが物語の大きな推進力となっているのです。

物語世界

あらすじ

 物語はマドリードの王宮で開催される華やかな仮面舞踏会から幕を開けます。修道院の若き修道女候補である貴族の娘アンジェルは、修道誓願を立てる前の最後の自由を楽しむため、親友のブリジットと共に黒いドミノを身にまとい、密かに舞踏会へと忍び込みます。そこで彼女は、一年前の舞踏会で自分に恋をした外交官のオラスと再会します。オラスは彼女の正体を知らぬままその魅力に再び強く惹かれますが、アンジェルは修道院の門限である午前零時が迫ると、彼の追跡を巧みに振り切って夜の街へと逃走します。


 ​しかし、運悪く馬車を失い帰還に失敗したアンジェルは、嵐を避けるためにたまたま目に付いた屋敷へと逃げ込みます。そこは偶然にもオラスの友人であるジュリアーノの家でした。正体が露見することを恐れた彼女は、屋敷の小間使いになりすまして、食事の給仕をしながらオラスたちの会話を盗み聞きするというスリリングな状況に置かれます。


 ​最終幕の舞台は修道院へと移ります。アンジェルはなんとか修道院に戻ることに成功しますが、折悪く彼女は亡くなった前院長の後継者に指名されてしまいます。神への誓いとオラスへの愛の間で窮地に立たされるアンジェル。しかし、そこへオラスが女王からの勅命を携えて現れます。女王の温情によって彼女は修道誓願から解放され、還俗してオラスと結婚することが許されます。

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