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ストリンドベリ『愚者の擁護』解説あらすじ

ストリンドベリ
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始めに

 ストリンドベリ『愚者の擁護』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ストリンドベリの作家性

 『令嬢ジュリー』を書いた時期のストリンドベリにとって、最大の指針だったのがエミール=ゾラです。遺伝と環境が人間を決定するという自然主義の理論に衝撃を受けました。


​ ニーチェの影響もあります。​ストリンドベリはニーチェと直接文通をしていた数少ない同時代人の一人です。強者と弱者の闘争や道徳の否定といったニーチェ哲学は、彼の描く男女の権力争いにダイレクトに反映されました。


​ 中年期の精神的危機を経て、彼が没頭したのが同郷のスウェーデン人神秘思想家スヴェーデンボリです。この世は地獄であり、身の回りの不幸はすべて霊的な意味を持つという解釈を学びました。これにより、写実的な作風から、後の表現主義の先駆けとなる『ダマスカスへ』や『夢の劇』のような幻想的な作風へとシフトしました。


​ ​初期のストリンドベリは、デンマークの哲学者キェルケゴールの強い影響下にありました。既成の教会への不信感や、単独者として生きる個人の内面的な葛藤、そして「絶望」というテーマを学びました。


​ ​劇作家としては、ストリンドベリはシェイクスピアをロールモデルとしました。

タイトルの意味など

​ ストリンドベリにとって、男女の愛は安らぎではなく、どちら一方が相手を精神的に屈服させるかという権力闘争でした。愛しているからこそ、相手を支配下に置かなければ自分が破壊されてしまうという強迫観念が描かれています。


​ 妻が夫の精神的エネルギーを吸い取り、夫を無能に陥れることで優位に立とうとする寄生的な対立が大きなテーマです。

 ​この小説の動力源は、病的なまでの嫉妬心と疑念です。​妻の不貞、同性愛の疑惑、自分を精神病棟に送り込もうとする陰謀など、主人公が抱く猜疑心が執拗に描写されます。単なる嫉妬を超え、真実が分からないという不確かさが人間を狂気に追い込む過程がテーマとなっています。


 ​『令嬢ジュリー』のジャンと同様、ストリンドベリ自身の育ちへの意識が影を落としています。​貴族出身の妻(シリ。作中ではマリア)に対し、自分は召使の息子であるという劣等感がありつつ、知性においては自分の方が圧倒的に優れているというエリート意識があります。この劣等感と優越感のブレンドが、妻に対する攻撃性の裏側にあります。


 ​タイトルの『愚者の擁護』が示す通り、自分は正気であると証明しようとすればするほど、語り口が狂気を帯びていくパラドックスが描かれています。自分の知性や理性を守るための自己正当化が、同時に自己崩壊を招く皮肉が浮き彫りにされます。

物語世界

あらすじ

 物語は、若き劇作家である主人公(筆者自身)が、貴族の妻である美貌の女性マリア(シリがモデル)に恋をするところから始まります。当初、彼は彼女を「聖女」のように崇め、禁断の恋に身を焦がします。やがてマリアは夫と離婚し、主人公と再婚します。

 しかし、結婚生活が始まると理想は崩れ去ります。主人公は、マリアの奔放な性格や浪費、そして彼女の「不貞」を疑い始めます。彼の疑いは次第に病的な執着へと変わり、​彼女は自分を破滅させようとしているのではないかと妄想します。また​彼女は同性愛者ではないか、子供は本当に自分の子なのかと悩みます。

​ 二人の生活は、激しい罵り合いと、その直後の情熱的な和解の繰り返しとなります。主人公は彼女を「悪魔」「吸血鬼」と呼び、自分が彼女の奴隷になっていると感じて絶望します。

​ 精神的に追い詰められた主人公は、自分の正当性を証明するために、この「告白」を執筆することを決意します。愛が憎しみへと変貌し、ついにはお互いを精神的に破壊し合うまでの過程が、狂気的な筆致で綴られます。

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