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島尾 敏雄『死の棘』解説あらすじ

島尾敏雄
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始めに

 島尾 敏雄『死の棘』解説あらすじを書いていきます。


ロシア文学、シュルレアリスム

 島尾敏雄はシュルレアリスムとロシア文学からの影響が大きいです。

 ドストエフスキー、プーシキン、チェーホフ、ゴーゴリ、ガルシンなどを好み、特にドストエフスキーに傾倒しました。

 他にもシュルレアリスムからの影響が顕著で、夢や幻想的なモチーフに共通性が見出せます。

シュルレアリスムとファム・ファタール

 シュルレアリストのブルトンは既成の芸術やブルジョア社会へのカウンターとして、実際の若い犯罪者に着目するなどし、モロー(「出現」)の絵画に描かれるファムファタル表象に着目しました。シュルレアリスムの影響が顕著な三島由紀夫の本作や『青の時代』、中上健次(『千年の愉楽』)の永山則夫への着目もこうしたモードの中にいて、グランギニョルな青春物語を展開しました。

 ブルトンにとって、ファムファタールは既存のモラルへのアンチテーゼでした。ブルトン『ナジャ』も狂気のファムファタールを通じた既存の秩序の相対化を図る内容ですが、本作『死の棘』とテイストがやや似ています。

モデル

 本作は島尾敏雄の不倫と妻ミホの苦悩が背景です。

 1952年から東京に移り、東京都立向丘高等学校定時制の非常勤講師をしながら吉本隆明、奥野健男、清岡卓行らと雑誌『現代評論』を始めたころ、島尾の浮気がありました。それを知った妻ミホは心の病に冒されます。穏やかな南島で育ち、隊長として出会った島尾を尊敬していたのに裏切られ、精神に異常をきたしました。

 ミホは子供の前でも夫に怒りをぶつけ、ミホの発作が続く中、ついに島尾は子供たちを奄美大島のミホの叔母のもとに預け、千葉県市川市の国府台病院に入院した妻に付き添う病院での介護生活をします。娘マヤの体調不良、妻の脱走事件などから妻を退院させた後は、彼女の実家がある奄美に移住し、鹿児島県立大島高等学校や、鹿児島県立大島実業高等学校定時制の非常勤講師をしました。

 本作で描かれるのはこの頃のことです。

物語世界

あらすじ

 物語は、1954年(昭和29年)の東京から始まります。


 作家である主人公の「私(トシオ)」は、ある日、妻の「ミホ」に自身の長年にわたる不倫を察知されてしまいます。日記や手紙から不貞の証拠を掴んだミホは、それまでの穏やかな性格から一変し、激しい狂乱状態に陥ります。

 ミホの精神は均衡を失い、トシオに対して昼夜を問わない執拗な詰問が始まります。 トシオは逃げることなく、彼女の荒れ狂う言葉をすべて受け止め、過去の過ちを一つひとつ白状させられます。食事も睡眠も満足に取れない、極限状態の生活が数ヶ月にわたって続きます。

​ ミホの症状は次第に悪化し、幻覚や自殺未遂、あるいはトシオへの暴力となって現れます。しかし、トシオは彼女を精神病院へ隔離して自分だけ逃れる道を選びません。ミホの狂気は自分自身の罪が招いたものだと自覚し、彼女の苦しみを共に背負うことを決意します。

 ミホを精神病院の保護病棟に入院させますが、トシオもまた彼女のそばで共に生活を送るようになります。周囲からは異常に見えるその共生の中で、二人は崩壊の淵に立ちながらも、奇妙で濃密な夫婦の絆を再構築していくことになります。

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