始めに
アトウッド『侍女の物語』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ピューリタニズム
本作は初期アメリカ合衆国におけるピューリタニズムを風刺的に描きます。
語り手のオブフレッドは、クーデターでアメリカ合衆国を倒して建国された強権的な神権主義国家「ギレアデ共和国 」に暮らしていますが、ギレアデ共和国はそのような、厳格なピューリタニズム、封建主義を体現するものです。
ギレアデ共和国は出生率の危機的な低下を前に、すべての女性が財産や権利を剥奪され、出産能力のある女性は子どもを産む道具「侍女」として国家に管理される、というディストピアになっています。
ユートピア文学、ディストピア文学
本作はユートピア文学、ディストピア文学の作品です。
ユートピアという言葉は、1516年に出版されたイギリスの思想家トマス=モアの著作『ユートピア』(Utopia)で初めて用いられました。ユートピアという言葉は、ギリシア語の outopos(存在しない場所)と eutopos(良い場所)の両者を踏まえ、理想的な国家に関する両義的で皮肉なモデルをそこで提起しました。これがその後のユートピア文学、ディストピア文学のモードに影響します。
本作も、女性が抑圧される全体主義のディストピアを描きます。
イスラム世界
1978年から79年にかけてのイラン革命も本作の背景です。この革命では、女性の権利を大幅に制限し、女性に厳格な服装規定を課す神権政治が樹立されました。
ギレアデ共和国でも、女性の自由は厳しく制限されます。侍女たちは深紅の服を支給品として身にまとうことが義務です。スカートはくるぶしまであり、赤い靴は脊椎を保護するため平底です。顔は白い「翼」と呼ばれるフードで覆われ、まわりを見たり、顔を見られたりすることを防ぎます。そして装飾品、化粧品は禁じられます。
こうした設定はイラン革命を踏まえています。
第二次大戦後のカナダ
アトウッドはカナダの作家です。
第二次世界大戦中、カナダの女性たちは軍隊につとめる男性に代わって仕事を引き受け、戦争が終われば男性に仕事を譲ることが期待されていました。戦後、主婦や母親としての伝統的な役割を拒んだ女性も多く、軋轢を生みました。
このような事実は、作品の背景です。
語りの構造
語り手のオブフレッドは、クーデターでアメリカ合衆国を倒して建国された強権的な神権主義国家「ギレアデ共和国 」に暮らしていて、彼女の手記が作品の中心的テクストです。
物語は、未来に発見されたオブフレッドの手記を、ギレアデ共和国の証言記録として歴史家が紹介する場面で終わります。オブフレッドがどうなったのかは示唆されません。
このあたりの構造はオーウェル『1984』を連想させます。
物語世界
あらすじ
語り手のオブフレッドは、クーデターでアメリカ合衆国を倒して建国された強権的な神権主義国家「ギレアデ共和国 」に暮らしています。オブフレッドは「侍女 (Handmaid)」として子どもを授からないエリート層夫婦の代理母となる役割を担っています。オブフレッドが仕えているのは共和国の司令官で、排卵期になると、司令官の男が聖書を読みあげたあと、男の妻セリーナ=ジョイがオブフレッドの手を握るなか、儀式として性行為をします。
ギレアデ共和国では出生率の危機的な低下を前に、すべての女性が財産や権利を剥奪され、出産能力のある女性は子どもを産む道具「侍女」として国家に管理されます。オブフレッドの名前も本名ではなく、配属先の司令官の男の名に「of」を冠した名を与えられています。女性は本を読むことも禁じられ、手にしてよい文字は神の国の到来を祈る祈禱書だけです。
侍女には任期があり、任期中に妊娠できないと別の司令官の元へ派遣されます。しかし派遣回数は三回までで、それでも妊娠しなかった場合は「不完全女性(Unwoman)」とされ、「コロニー」へ連れて行かれ、放射性物質や死体の処理をします。妊娠し健康な子供を出産できれば、未来が約束されます。
女性の自由は厳しく制限され、オブフレッドも司令官らの用事をすませるため以外の外出は許されません。侍女たちは深紅の服を支給品として身にまとうことが義務です。スカートはくるぶしまであり、赤い靴は脊椎を保護するため平底です。顔は白い「翼」と呼ばれるフードで覆われ、まわりを見たり、顔を見られたりすることを防ぎます。いっさいの装飾品、化粧品は禁じられます。女性たちは「目 (The eye)」と呼ばれる秘密警察によって監視されます。
ギレアデ共和国の建国以前、オブフレッドはルークという男と家庭をもち、幼い娘と三人で暮らしていました。クーデターのあとカナダへ脱出しようとするものの捕らえられ、家族は離ればなれになります。
オブフレッドは「赤のセンター」と呼ばれる洗脳施設へ送りこまれます。指導役のリディア小母は、女性は男性に従属し出産に専念すべきだと説きます。旧社会では、日常のあらゆる場面で女性たちが性的なからかいや威圧の対象となっており、比べてギレアデ共和国の社会の方がはるかに女性へ「尊厳と安全」を与えていると話します。
かつてリベラルな大学が集まっていたマサチューセッツ州ケンブリッジにある司令官の家に配属されたオブフレッドは、医師による毎月の精密検査、毎月の「儀式」が習慣となります。
共和国は深刻な内戦状態にあるものの、それを伝えるメディアは生き残っていません。ケンブリッジにあったハーバード大学は壊滅し、キャンパスは、かつて妊娠中絶手術を行った医師や、同性愛者らが処刑され、遺体を吊す場所となっています。図書館では反国家的な書物が焼き捨てられています。
オブフレッドは抑圧を受け入れているものの、禁欲主義につらぬかれたギレアデ共和国でも、娼館「ジェゼベル」や政権転覆をもくろむ地下組織「メイデイ」が存在し、儀式以外の性交が秘密に行われていることを知ります。
オブフレッドが妊娠しないまま月日が過ぎると、妻のセリーナは夫の不妊を疑い、庭師のニックと性交して子どもを司令官が認知するよう持ちかけます。オブフレッドはニックとの関係にのめりこむものの、司令官の男もしだいに彼女との儀式的な性交を個人的なものとして楽しむようになり、オブフレッドを娼館へ連れ出します。
そんなあるとき地下組織を名乗る人々が現れてオブフレッドを寄宿舎から連れ出すのでした。
物語は、未来に発見されたオブフレッドのこの手記を、ギレアデ共和国の証言記録として歴史家が紹介する場面で終わります。オブフレッドが解放されたのか処分を受けたのかは暗示的です。




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