始めに
シラー『たくらみと恋』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ドイツロマン主義、古典主義
シラーは、ゲーテと並ぶドイツ古典主義の代表者です。初期の劇作品群はシュトゥルム=ウント=ドラング期に分類され、これはロマン主義ですが、ゲーテと比べるとキャリアの中で、次第に抑制されたスタイルへのこだわりを見せ、破綻もはらむ自由なスタイルのゲーテの作風とはやや違いが見えます。
シラーはゲーテやシェイクスピアからの影響が大きく、本作も四代悲劇のような、すれ違いや性格がもたらす悲劇を描きます。
ロマン主義的テーマ
本作は個人の感情的純粋さと国家・宮廷の制度的暴力が直接衝突する構造をもっとも鮮烈な形で提示した作品です。タイトルに掲げられた「Kabale(たくらみ)」と「Liebe(恋)」という二項がその中心です。
物語は、貴族階級に属するフェルディナンドと、市民階級の娘ルイーゼという身分違いの恋から出発します。二人の感情はきわめて純粋で、私的領域における誠実さを体現します。しかしその純粋さこそが、宮廷社会の権力構造にとっては破壊的であり、許容されざる脅威として認識されます。
フェルディナンドの父ルイス=フォン=ヴァルターは、息子を大公の愛妾レディ=ミルフォードと結婚させることで政治的地位を強固にしようとしており、宮廷の官僚たちは自らの私的利益と社会秩序の維持を優先しつつ、若い恋人たちを引き裂く策を練ります。こうした背景には、18世紀ドイツの地方宮廷に典型的な絶対主義的家産国家の残滓があり、権力者たちは個人の感情や幸福よりも、階級秩序・政治的均衡・私的利益の保守を優先しました。
権力の側が仕掛ける「たくらみ」の核心は、ルイーゼに強制して書かせる偽の恋文です。彼女は家族の生命や身の安全を脅され、道徳的に誠実な人物でありながらも沈黙を強いられます。フェルディナンドはその手紙を真に受け、恋人の裏切りを確信して激情に駆られ、結果的に毒による心中へと至ります。
フェルディナンドとルイーゼの悲劇性は、互いの人格や道徳性が欠如しているためではなく、むしろその逆で、双方が純粋であればあるほど、制度の側の暴力と摩擦するという逆説にあります。シラーはこの逆説を強調し、近代人の内部にある倫理的絶対性と感情の無垢さが、外部世界の政治的現実といかに衝突し、その純粋さゆえに破滅を招きうるかを鋭く描きます。とりわけフェルディナンドは、恋愛感情に対して絶対化的な態度をとり、妥協や距離化の可能性を拒否します。この感情の絶対化こそが、彼を陰謀の罠に落とし入れる決定的要因となるのです。ルイーゼの側は敬虔さと家族への忠誠によって道徳的に揺らがないものの、権力の暴力に圧し潰されます。
物語世界
あらすじ
フェルディナンドは陸軍少佐で、ドイツ公爵の宮廷に仕える高位貴族のヴァルター大統領の息子であり、ルイーゼ=ミラーは中流階級の音楽家の娘です。二人は恋に落ちるものの、双方の父親から関係を終わらせるよう言われます。大統領は息子フェルディナンドを公爵の愛妾であるミルフォード夫人と結婚させることで自身の影響力を拡大したいと考えます。
しかし、フェルディナンドは父の計画に反発し、ルイーゼに駆け落ちを勧めようとします。大統領と秘書のヴルム(フェルディナンドのライバル)は陰謀を企て、ルイーゼの両親を理由もなく逮捕します。ルイーゼはカルプ宮廷元帥に宛てた恋文の中で、両親を釈放するには死しかないと宣言します。さらにルイーゼはこの手紙(実際には強制されたもの)を自分の自由意志で書いたことを神に誓わせます。
この手紙はフェルディナンドに漏れ、嫉妬と復讐心と絶望を呼び起こします。
ルイーゼは自殺によって解放されようと試み、フェルディナンドの前で死に、愛する二人の純潔を取り戻そうとするものの、父は二人に強大な圧力をかけ、これを阻止します。彼女には告発に対抗するために、誓いに定められた沈黙と嘘しか残されていません。
怒りと絶望に目がくらんだフェルディナンドは、自身もろとも、ルイーズを毒殺します。死の間際、ルイーズは沈黙の誓いから解放され、フェルディナンドに陰謀を明かし、彼を許します。フェルディナンドは妄想から覚め、恋人の無私の忠誠を認めます。父は息子の前にひざまずき、その後、清めの準備を整え、法廷に身を委ねるのでした。




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