始めに
田辺聖子「感傷旅行」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
谷﨑とフランス文学の影響
田辺聖子は谷崎やフランス文学の心理劇からの影響が大きいです。
谷崎潤一郎は英仏の象徴主義、古典主義からの影響が顕著です。オスカー=ワイルドの作品は『ウィンダミア卿夫人の扇』などを共訳で翻訳していますし、『サロメ』的なファム=ファタールを描いた本作や『痴人の愛』などもあります。ワイルドの戯曲作品のような、卓越したシチュエーションのデザインセンスとその中での心理的戦略的合理性の機微を捉えるのに長けているのが谷崎文学の特徴です。他にもスタンダール(『赤と黒』)的な心理劇、古典趣味も谷崎の顕著に影響していますし、またウィルキー=コリンズに影響されつつ、ダイナミックなリアリズムを展開したハーディ(『ダーバヴィル家のテス』)からの影響も顕著です。
田辺も谷崎と重なるメロドラマのシチュエーションデザインのセンスと、その古典趣味が特徴です。
タイトルの意味
タイトルはドリス=デイの曲『センチメンタル=ジャーニー』から取っています。
この曲は、誰かが強い愛着を持つ場所(故郷か)へ向かう電車に乗ろうとしており、なぜ今までそこを離れて遠くへ放浪していたのかと思い、高まる期待について伝えています。
本作のイメージから失恋の曲のようにも感じますが、別にそのようにイメージを絞っているわけでなく、何か身の回りであったらしく、そこから愛着を持つ場所へ帰ろうという心情を伝える内容です。
語りの構造
物語は等質物語世界の語り手のヒロシを設定しています。ヒロシは放送作家で、有以子という親友があります。そしてヒロシの視点から、有以子とその新しい恋人であるケイの恋の顛末を物語る、という構造になっています。
谷崎『痴人の愛』にも似て、口語的でリズミカルな語り口と視点の設定の制限による三角関係の演出が優れています。
物語世界
あらすじ
8月終わりの真夜中、放送作家の有以子から同業者で語り手のヒロシに電話が掛かってきます。親友のヒロシに「プレハーノフって何」「トロツキストは善玉か悪玉か」と質問をしてきます。有以子はさまざまな男たちと数々の恋愛をしてきたものの、今度の相手は肉体労働者の党員です。線路工夫をしている真面目な男だそうです。「あらゆる政党の中で前衛党だけはウソをつかない」、党は「弱きもの、虐げられたるものの味方」であり、革命が起これば「人間がたのしく思うままに生き」「自分も他人も傷つけず、ぎせいにしない仕組みの社会」が実現するそうです。僕はいいかげんに電話を切ります。有以子は恋人ができるたび、周りの反応をみて楽しむのでした。
有以子は元々雑文を書くコラムニストで、2、3年前の懸賞ドラマに入選し、放送作家となります。他にもラジオの身の上相談、美人コンクールの審査員などで活動する「文化人」です。背は低く、顔も体も丸々しています。ヒロシは有以子と何度も仕事をしています。
電話の翌日、仕事の打合せで放送局のある肥後橋のビルへ行くと、有以子に出くわします。有以子は新しい恋人のケイと結婚するつもりであるものの、まだ寝ていないと言います。愛し合ってるなら寝るべきだと冷やかすと、有以子は「バカ!」と叫びます。
2週間ほど後、中央公会堂で党の講演会があり、そこでヒロシは有以子と恋人のケイに会います。身なりの粗末ながっしりした男で、ヒロシよりは年上に見えます。3人でビヤホールへ行き、ケイの朴訥な様子に僕は好感を持ちます。ビヤホールを出て、有以子の元恋人のジャズ歌手、ジョニーに会います。
皆でキタのバーへ行って騒ぎ、有以子とジョニーがふざけ合うと、ケイはあきれて、「マスコミ人種ですなあ」と僕に絡みます。
1週間ほど後、9月第3週の夜遅く。大雨の中を有以子とケイが僕の部屋にやって来ます。違う世界の人間だと分かったので別れたい、とケイは言います。有以子がすすり泣きをし、2人は言い争いを続けるうちに仲直りします。有以子に今夜何処かに泊まるようにと頼まれ、ヤケになった僕は部屋を飛び出します。
それから2人は結婚の話しが進みます。
秋になりました。部屋に帰ると有以子がいて、ケイが置き手紙をして行方をくらました、と泣きわめきます。ケイの手紙には、昔の恋人と関係が戻り、子どもが出来た、町工場で働く労働者である彼女と共に未来の社会を変革したい、と書かれています。なだめていると有以子は落ちつきますが、「誰とでも寝る安モノ」というヒロシの言葉に傷つき、怒り、反発してヒロシも殴ります。
結局、僕と有以子は一夜を過ごし、性交渉を持ちます。次の日、2人で古代の遺跡を見に行こうと、奈良に行く計画を話し合うものの、放送局から電話で新しい仕事が入ります。
僕と有以子はそれぞれの仕事先に向かうため、梅田新道で別れます。こうしてケイと有以子、有以子と僕の感傷旅行は終わります。




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