始めに
円地文子『朱を奪うもの』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
自伝的小説
本作は自伝的な小説になっており、宗像滋子は円地文子自身がモデルとなっています。描写から伺うには、養父の藤木志郎は小山内薫、夫となる宗像勘次は円地与四松、不倫相手の一柳燦は片岡鉄兵と考えられます。
作者自身が養子になった経緯はないので、世話になった小山内薫を父親としたのは大きな脚色です。
谷崎潤一郎の影響
円地は谷崎潤一郎からの影響が顕著です。本作『朱を奪ふもの』(1956年)『傷ある翼』(1960年)『虹と修羅』(1968年)の三部ではなんと、自身が選考員を務める谷崎潤一郎賞を受賞するという怪挙を成し遂げました。
本作も谷崎と同様に古典的な日本文芸や劇作品を参照しつつ、ドラマティックな心理劇を展開していきます。代表作の『女坂』なども、心理劇的な膨らませ方が上手いです。
本作は谷崎文学でいうと『細雪』に重なるような内容で、ミクロなアクターの視点から、丹念に描写を掘り下げていくことで、歴史の記述を試みていきます。
物語世界
あらすじ
滋子は、藤木志郎というS大の英文学科の教授の家でそだちました。新しい演劇の指導者として、藤木志郎は有名でした。
そんな滋子は新劇運動の旗手、橘隆三氏に憧れるようになりました。滋子は、橘氏が選考委員をつとめる演劇雑誌の賞に入賞し、劇作家となります。しかし、橘氏はまもなす心臓発作で亡くなります。
橘氏の死によって、演劇界は芸術性を求める派閥と、プロレタリア演劇を行う派閥に別れていきます。
滋子は演劇を観に行き、雑誌の座談会に参加しようとしたところ、左翼運動の一員として、警察に捕まります。滋子の伯父が裁判官であり、無事に釈放されます。この時にプロレタリア作家で劇作家の一柳燦と出会います。やがて二人は惹かれ合うものの、一柳は妻子があります。
滋子に考古学者の宗像勘次との見合いが起こります。二人の間で板挟みになる滋子です。




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