始めに
トルストイ『アンナ=カレーニナ』を書いていきます。
語りの構造、背景知識
リアリズムとリベラリズム(ツルゲーネフ、ディケンズ、スターン、ルソー)
トルストイはディケンズ(『ディヴィッド=コッパーフィールド』)やツルゲーネフ(『猟人日記』)などからの影響が顕著で、そこから独自のリアリズム描写とリベラリズム的な発想を構築しました。またルソーなどの自由主義の影響も顕著で、そこから戦争経験を経て農奴制と戦争への批判的な姿勢が生まれました。
本作においては例えばディケンズ『デイヴィッド=コッパーフィールド』という教養小説(心の成長を描くジャンル)にも似て、主人公格のリョーヴィンが人の死の運命を目の前にしたことで自己物語を洗練させ、公共的な徳を背景にした自由を獲得するプロセスが描かれます。この辺りは『イワン=イリイチの死』にも重なります。
保守主義、プラグマティズム
代表作のトルストイ『戦争と平和』はナポレオン戦争を描いた戦記文学として知られています。トルストイ自身もクリミア戦争における従軍経験があり、それに由来する反戦思想と農奴制への批判的な発想が起こりました。カフカース地方での生活とクリミア戦争への従軍経験が民衆の偉大さを発見し、それを搾取する構造を持つ戦争という事象と、農奴制に抗いました。トルストイはルソーの自由主義思想の影響も大きく、それが反戦にもつながっていると思われます。
このような、民衆という存在と彼らの実践に立脚する保守主義、プラグマティックな思想がトルストイ文学のルーツです。
本作においては民衆の利他的な日常実践の中に救いを見出して公共的な徳を獲得するリョーヴィンが描かれる一方、公共圏の中での実践から承認欲求や欲望をエスカレートさせることで逸脱し破滅していくカレーニナとヴロンスキーが対照的に描かれます。
物語世界
あらすじ
1870年代のロシア。
政府高官カレーニンの妻でアンナは、モスクワで若い貴族の将校ヴロンスキーと出逢い、惹かれ合います。
地方の純朴な地主リョーヴィンはアンナの兄嫁の妹キティに求婚するものの、断られます。失意のリョーヴィンは領地に戻り、農地の経営改善に取り組みます。またキティはヴロンスキーに無視され、病に陥ります。
アンナは夫と息子の待つペテルブルクへ帰京するものの、ヴロンスキーはアンナを追います。二人の関係は急速に深まるものの、カレーニンは世間体を気にして離婚に応じません。
アンナはヴロンスキーの子供を出産後、重態となりすが、カレーニンはアンナを許します。ヴロンスキーはアンナを失うことに絶望しピストル自殺を図るものの、未遂に終わります。その後ヴロンスキーは退役、アンナと海外へいきます。
リョーヴィンはキティと結婚し、領地の農村で新婚生活を始めます。そして兄の死から、人生の意義に悩みます。
帰国したアンナとヴロンスキーの二人は、スキャンダルから社交界から追放、ヴロンスキーの領地に移ります。離婚の話は、なかなか進見ません。アンナとヴロンスキーとは気持ちがすれ違いだし、アンナはヴロンスキーの浮気を疑います。そしてアンナは列車に身を投げるのでした。絶望したヴロンスキーは、露土戦争に赴きます。カレーニンはアンナとヴロンスキーの間の娘である幼子のアニーを引き取ります。
一方、リョーヴィンは、キティと領地で幸せな家庭を築き、人は他人や神のために生きるべきと悟るのでした。
参考文献
・藤沼貴『トルストイの生涯』(第三文明社,2019)




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