始めに
漱石『明暗』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
英文学のリアリズム(ジョージ=エリオット、オースティン、ヘンリー=ジェイムズ)、プラグマティズム
夏目漱石は国文学では割と珍しく(露仏米が多い印象です)、英文学に創作のルーツを持つ作家です。特に好んだのは、英国のリアリズム作家(オースティン[『傲慢と偏見』]、ジョージ=エリオット、H=ジェイムズ[『ねじの回転』『鳩の翼』])でした。『三四郎』『それから』『こころ』『行人』『明暗』などの代表作は、そのような英国の心理リアリズム描写を範とします。
また、漱石はH=ジェイムズの兄ウィリアムなど、プラグマティズムからも影響されました。これは極めてざっくりいうと、日常言語や日常的実践の世界を分析的に捉えようとする潮流です。現代でも推論主義や消去主義のような形で継承されています。こうした哲学的潮流に触れることが、日常的な実践への鋭敏な感性を培ったと言えます。
複数の人物に焦点化。異質物語世界の語り手
本作品は家族の中での心理劇を展開するのにあたって、異質物語世界の語り手を導入し、複数の人物を焦点化する人物に設定しています。この辺りは私淑したヘンリー=ジェイムズ『鳩の翼』と共通です。
ヘンリー=ジェイムズ『黄金の盃』
本作は未完のまま終わりましたので、この先どうなるのかわかりません。とはいえジェイムズ『黄金の盃』からシチュエーションにおけるインスピレーションを得ているというのが定説で、こちらのあらすじを書いていきます。
富豪で初老のアメリカ人アダム=バーバーは、美術品収集家に転身、娘マギーとロンドンに来ます。妻を亡くしてから、父は娘と2人暮らしで水も漏らさぬ黄金の盃のような関係、に見えていました。そこで娘はイタリア人貴族アメリゴ公爵と結婚し、一方、父はシャーロットという女性と結婚します。しかしシャーロットはアメリゴ公爵のかつての愛人で、これを隠していました。こうして四角関係が生まれ、父と娘は家族の絆を、公爵とシャーロットは社交界での活動を口実に以前の関係を取り戻し、各々の夫婦の危機が訪れます。タイトルになっている「黄金の盃」とは作品に登場するモチーフで、金箔が貼られており見栄えはいいですが、実はかすかな傷があって、水が入るとこぼれてしまいます。このため四人の関係の危機を象徴するシンボルになっています。危機の中、マギーは父とシャーロットをアメリカへ帰し、破局を逃れようとし、幕を閉じます。
『明暗』もこのように2組の夫婦の間で起こっていく四角関係を予感させますが、想像で補完するよりありません。
物語世界
あらすじ
会社員の津田由雄は、痔の治療のための手術費の工面に迫られてます。だが、親は不義理のために金を出すのに難渋し、妹のお秀から責められます。
津田には、勤め先の社長の仲立ちで結婚したお延という妻がいるものの、お秀と不仲です。俗っぽく贅沢なお延と津田の夫婦関係もうまくいきません。津田にはかつて清子という恋人がいたが今は人妻で、関という夫がいます。お延にはこれを隠しています。
お延の叔父が、津田の入院費を工面してくれました。入院先に、かつて清子を津田に紹介した吉川夫人が現れます。夫人は、清子が流産し湯治していると話し、清子に会うよう勧めます。
津田は一人で温泉へ行き、清子と再会します。
参考文献
・十川信介『夏目漱石』
・佐々木英昭『夏目漱石』




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