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ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』解説あらすじ

ガストン・ルルー
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始めに

 ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ルルーの作家性

 ルルーにとってポーは、推理小説の形式を確立した絶対的な先駆者でした。ルルーの代表作『黄色い部屋の謎』の主人公、ルルタビーユは、ポーの生み出した探偵デュパンのように純粋な思考の円によって事件を解決しようとします。『オペラ座の怪人』に見られる、地下迷宮や奇怪な容貌といったゴシック・ホラーの要素も、ポーの影響が色濃く反映されています。


​ ​ルルーの物語のスケールの大きさや、建築物を物語の主役級に扱う手法はユゴーから受け継がれたものです。ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』がノートルダム大聖堂を舞台に、醜いカジモドを描いたように、ルルーはガルニエ宮という巨大な迷宮を舞台に、醜いエリックを配置しました。


 ​フランスにおける警察小説の先駆者であるガボリオも、ルルーに大きな影響を与えました。ガボリオが生み出した探偵ルコックの科学的な捜査や足跡の分析といった手法は、ルルーが作品にジャーナリスティックなディテールを盛り込む際の土台となりました。


​ ​ルルーはドイルのシャーロック・ホームズを強く意識し、時には対抗心を燃やしていました。ルルタビーユは、ホームズのような物証に頼る捜査を時に否定し、より形而上学的な理性の正道を重視します。


 ​ルルーはエミール・ゾラに代表される自然主義の時代に記者として活動していましたが、自身の創作においては、あえてそこから逸脱し、想像力豊かな驚異や怪奇の世界を追求しました。この事実に基づきながらも、事実は想像力によって凌駕されるという姿勢が、彼の作品を単なる通俗小説以上のものにしています。

ゴシック

 ​この作品の最大の主役は、パレ=ガルニエ(オペラ座)という巨大な建築物そのものです。華やかな舞台や豪華な客席という表の顔に対し、その地下には広大な迷宮と暗い湖が存在します。これは人間の意識と無意識、あるいは文明と野蛮の対比を空間的に表現したものです。 怪人エリックは、壁の裏や鏡の向こう側を自在に行き来します。これは、日常のすぐ裏側に非日常が潜んでいるという、19世紀末から20世紀初頭にかけての不安感を象徴しています。

 ​エリックというキャラクターは、ヴィクトル・ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』のカジモドや、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』の怪物に連なる社会から拒絶された魂の系譜にあります。彼の圧倒的な才能は、その醜悪な容貌一点によって社会から否定されます。彼が仮面を被るのは正体を隠すためだけでなく、社会の一員として人間らしい顔を擬態するためです。彼の悲劇は、内面の豊かさと外見の乖離が、愛という形でも埋められない点にあります。

エリックの孤独

 音楽の天使というモチーフは、芸術が持つ神聖さと、同時に人を狂わせる破壊的な力を示唆しています。エリックはクリスティーヌにとって、父の身代わりであり、才能を引き出す師ですが、その関係は支配的で強迫的です。芸術的完成を求める情熱が、他者を所有しようとする狂気に変貌する様が描かれています。

 ​ルルーは、作中で怪奇現象を徹底的に物理的・機械的なトリックとして説明しようと試みます。探偵役とも言えるペルシャ人は合理的にエリックを追いますが、それでもなおエリックが放つ運命の呪いのような不気味さは拭えません。19世紀末の科学万能主義の中で、それでも説明のつかない人間の心の闇や宿命を、ルルーはエリックという怪人物を通じて描き出しました。


​ ​エリックには固定された居場所がありません。彼は建築家でありながら地下に隠れ、音楽家でありながら姿を見せず、名前さえも怪人という属性で呼ばれます。

物語世界

あらすじ

 ​1880年代のパリ。パレ・ガルニエ(オペラ座)では、不可解な事件が相次いでいました。オペラ座の怪人を自称する存在が、経営陣に5番ボックス席の専用予約と月々の手当を要求する脅迫状を送ります。
​ 

  無名のコーラスガールだったクリスティーヌ=ダーエが、急病のプリマドンナの代役として歌い、聴衆を熱狂させます。彼女の幼馴染であるラウル子爵は、その歌声に魅了され、彼女への恋心を再燃させます。


​ ​クリスティーヌは、亡き父が約束した音楽の天使から歌の指導を受けていると信じていました。しかし、その正体は、オペラ座の地下深くに潜む醜悪な容貌の天才、エリックでした。 エリックはクリスティーヌを地下の湖のほとりにある隠れ家へ連れ去ります。彼は彼女を愛しており、自分の素顔を見ないことを条件に、彼女を解放します。


​ しかし、クリスティーヌは好奇心から彼の仮面を剥ぎ取ってしまいます。エリックは激昂しますが、彼女の恐怖と悲しみを見て、最終的に彼女を地上へ戻します。クリスティーヌはラウルにすべてを打ち明け、二人で逃亡する計画を立てます。しかし、それを察知したエリックは、公演中の舞台から彼女を再び連れ去ります。ラウルは、エリックの過去を知る謎の人物「ペルシャ人」と共に、罠が仕掛けられたオペラ座の地下へと潜入します。


​ エリックはラウルたちを拷問部屋に閉じ込め、クリスティーヌに究極の選択を迫ります。​蠍の置物はエリックとの結婚を承諾する、​バッタの置物はオペラ座を爆破して全員で死ぬ。クリスティーヌは皆を救うため、絶望の中でエリックを受け入れる決意をし、彼の醜い頬に慈愛のキスを贈ります。生まれて初めて他者の温もりに触れたエリックは、激しい衝撃と深い悲しみに包まれます。彼は自分のエゴを捨て、クリスティーヌをラウルの元へ帰すことを決意します。


​ ラウルとクリスティーヌが去った後、エリックは孤独のうちに息を引き取ります。数年後、オペラ座の地下からは、金色の指輪をはめた奇妙な骸骨が発見されるのでした。

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