始めに
シンクレア=ルイス『エルマー=ガントリー』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
シンクレア=ルイスの作家性
ルイスが自分のヒーローとして公然と認めていたのがウェルズです。ルイスはウェルズの現状を打破しようとする進歩的な姿勢に強く共鳴していました。ルイスの描くキャラクターは、どこか滑稽でかつ象徴的ですが、これはディケンズの影響が色濃いと言われています。
作家ではありませんが、経済学者・社会学者のソーステン=ヴェブレンの思想(『有閑階級の理論』など)は、ルイスの作品の骨格となっています。またアメリカ自然主義文学の巨頭であるドライサーからも影響を受けています。ほかにH.L. メンケンは同時代の辛口批評家であり、ルイスの良き理解者でもありました。
宗教批判
主人公エルマー=ガントリーは、信仰心ではなく注目を浴びたい、成功したいという欲望のために牧師になります。聖職という仮面を被れば、どんなに俗物的で不道徳な人間でも大衆のリーダーになれてしまうという、宗教組織の脆弱性を突いています。
ルイスはこの作品で、宗教をひとつの商品として描きました。エルマーは神の言葉を語るのではなく、どうすれば観客を興奮させ、寄付を集め、自分の市場価値を高めるかを計算します。これは、1920年代の加熱するアメリカ資本主義と、信仰が融合してしまった姿への痛烈な皮肉です。
エルマーがどれだけスキャンダルを起こしても、彼が力強い言葉を語れば人々は熱狂し、彼を許してしまいます。批判的な思考を持たず、カリスマ的な指導者に扇動されやすい大衆の心理を批判しています。これはルイスが他の作品でも一貫して描いてきたアメリカ地方都市の閉鎖性と愚鈍さの延長線上にあります。
エルマーは壇上では禁欲を説きながら、裏では絶えず女性を誘惑し、自制心を持てない人物として描かれます。理想と現実の間の深い溝です。ルイスは、厳格すぎるピューリタン的道徳が、結果としてかえって歪んだ偽善者を生み出している現状を告発しました。
物語世界
あらすじ
主人公エルマー=ガントリーは、大学時代、酒と女に目がないフットボール選手でした。お世辞にも聖人とは言えませんが、彼には一つだけ天才的な才能がありました。それは人を惹きつけるバリトンボイスと、もっともらしい雄弁術です。
ある日、酔った勢いで回心したふりをしたところ、周囲から喝采を浴びてしまいます。これに味を占めた彼は、楽に稼げて尊敬もされる牧師という職業に目をつけ、神学校に入学します。
神学校を素行不良で追い出され、巡回セールスマンをしていたエルマーですが、美貌の女性伝道師シャロン=ファルコナーに出会い、彼女の巡回伝道団に加わります。ここでエルマーは、宗教をショーとして演出するノウハウを完璧にマスターします。シャロンは狂信的でありながら同時に商売上手でもあり、二人は愛人関係となりますが、彼女が建てた巨大な聖堂が火災に見舞われ、彼女は焼死してしまいます。
シャロンを失ったエルマーは、今度は伝統的なメソジスト教会に潜り込みます。彼は持ち前の世渡り上手さを発揮し、結婚すら出世の道具にして、中西部の都市ゼニスの大教会の牧師にまで上り詰めます。彼は道徳の守護神として酒や娯楽を厳しく批判し、市民の支持を集めますが、その私生活は相変わらず不道徳なままでした。
物語の終盤、エルマーはかつての愛人にゆすられ、スキャンダルで破滅しかけます。しかし、持ち前の図太さと弁明術でこれを切り抜け、逆に迫害された聖者として大衆の同情を勝ち取ってしまいます。
ラストシーン、彼は祭壇でアメリカを清らかな国にしよう、と熱烈な祈りを捧げますが、その目線は、聖歌隊にいる新しい美人の女の子を値踏みしています。




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