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ジョン=ウェブスター『モルフィ公爵夫人』解説あらすじ

ジョン=ウェブスター
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始めに

 ジョン=ウェブスター『モルフィ公爵夫人』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ウェブスターの作家性

​ 古代ローマの悲劇作家セネカの影響は決定的です。ウェブスターは、セネカ流の復讐悲劇の伝統を継承しています。


 ​同時代の巨人であるシェイクスピアの影響が見えます。ウェブスターの『白い悪魔』や『マルフィ公爵夫人』に登場する悪役の複雑な内面は、シェイクスピア的なキャラクター造形の影響が見られます。特に死生観や、罪悪感に苛まれる描写において、シェイクスピアの悲劇を意識した形跡が随所にあります。劇的な空白律の確立者であるマーロウからも、その力強い文体やマキャベリズム的な人物像を学んでいます。社会の底辺から這い上がろうとするエネルギッシュでシニカルな登場人物の造形は、マーロウの系譜にあります。


​ また同時代の詩人ジョン=ダンの影響、あるいは共通する形而上学的な感性が指摘されます。ウェブスターは常に死骸を見つめていると評されるほど、腐敗や骸骨といった死のイメージを多用しました。ダンの詩に見られる、知的で少し不気味な死生観と共鳴しています。


 ​ウェブスターはオリジナルの物語を作るよりも、既存の物語を劇的に再構築することを得意としました。『快楽の宮殿』はペインターによる物語集で、『マルフィ公爵夫人』の元ネタとなったイタリアの悲劇などが収められていました。

身分制度

 テーマは、個人の幸福を求める権利と硬直した身分制度の衝突です。未亡人である公爵夫人が、自分の家令であるアントニオと秘密裏に結婚することは、当時の価値観では家名を汚す犯罪的な行為でした。彼女はアントニオを身分ではなく徳で選びました。これは封建的な階級社会に対する、非常に進歩的で危険な挑戦でした。


 ​公爵夫人の二人の兄(枢機卿とフェルディナンド)が妹に向ける執着は、異常なまでの支配欲と女性蔑視に基づいています。兄たちは純潔な血筋を守るという名目で妹の再婚を禁じ、彼女の身体をコントロールしようとします。妹への近親相姦的な愛憎混じりの執着は、最終的に彼を人狼症(自分を狼だと思い込む病)へと追い込みます。


​ ​劇の冒頭で語られる噴水の比喩が、作品全体を象徴しています。宮廷というものは噴水のようなもので、源泉が毒されれば、国中に呪いが降りかかるというのです。


  枢機卿は聖職者でありながら、愛人を持ち、殺人を平然と行う権力欲の化身として描かれています。誰も信じられず、常に誰かに監視されている暗澹たる政治状況が、ボゾーラという密偵の存在を通じて浮き彫りにされます。

死と尊厳

 ​ウェブスターの真骨頂は、絶望の淵に立たされた人間の気高さの描き方にあります。​あらゆる拷問を受け、死を目前にしたモルフィ公爵夫人が放つ言葉は、外的な地位を奪われてもなお損なわれない内なる自己の勝利を宣言しています。恐怖に屈するのではなく、死を静かな眠りとして受け入れる彼女の姿は、生きながらにして精神が崩壊していく兄たちと対照的に描かれています。

 ​実行犯であるボゾーラは、この劇で最も複雑なキャラクターであり、報われない知性の象徴です。彼は自分の良心と、生きるための汚れ仕事の間で引き裂かれています。最終的に彼は、善も悪も虚無に帰す世界で、せめてもの個人的な復讐へと向かいますが、それは救いのない虚無感を強調することになります。

物語世界

あらすじ

 ​舞台は16世紀のイタリア。若くして未亡人となったモルフィ公爵夫人は、美しく聡明な女性です。彼女の二人の兄、枢機卿とフェルディナンド公爵は、家名と財産を守るため、そして妹への異常な執着から、彼女に再婚を厳禁します。


​ しかし、夫人は自らの意志で、身分違いの執事アントニオと秘密裏に結婚し、密かに三人の子供をもうけます。兄たちが送り込んだ密偵ボゾーラは、長年の監視の末、ついに彼女の不貞を突き止めます。


​ ​怒り狂った兄たちは、軍勢を差し向けて夫人を捕らえます。フェルディナンドは、暗闇の中で夫人に夫と子供たちの死体(実は精巧な蝋人形)を見せつけ、彼女を絶望させようとします。彼女の正気を奪うため、牢獄の周りで狂人たちを歌い踊らせます。しかし、夫人は屈することなく「私はまだモルフィ公爵夫人だ」と言い放ち、ボゾーラの手によって静かに絞殺されます。


 ​その後、実行犯のボゾーラは、夫人の最期の気高さに触れて良心の呵責に苛まれ、兄たちへの復讐を決意します。フェルディナンドは罪悪感から自分は狼だと思い込む人狼症を発症します。最終幕では、勘違いや裏切りが重なり、アントニオ、枢機卿、フェルディナンド、そしてボゾーラ自身も、登場人物のほぼ全員が刺し違えて死亡します。

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