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ダヌンツィオ『罪なき者』解説あらすじ

ダヌンツィオ
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始めに

 ダヌンツィオ『罪なき者』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ダヌンツィオの作家性

 ダヌンツィオはヨーロッパ中の新しい文学的潮流をいち早く取り入れました。


​ ​ダヌンツィオの初期から中期にかけての退廃的な美意識は、フランス文学から強い影響を受けています。ボードレールにおける悪の華やかさや、五感の照応の表現から刺激されています。ジョリスカルル=ユイスマンスも、『さかしま』に代表される現実を拒絶し人工的な美に閉じこもる耽美主義のスタイルが影響しました。フローベールも文体への影響があります。


 ​ダヌンツィオの作風を変化させたのがニーチェです。ニーチェの「超人」概念を独自に解釈し、それまでの耽美主義者から、行動する英雄、美を創造する強者であろうとしました。『死の勝利』や『炎』には、このニーチェ的要素が色濃く反映されています。


​ またロシア文学のリアリズムにも関心を寄せました。ドストエフスキー、トルストイなどの写実的スタイルに影響があります。


 イギリスのラファエル前派​からも影響があります。スウィンバーンの官能的で異教的な詩風からの刺激が見えます。またキーツ、シェリーなど、ロマン派的な自然観と美への情熱も見えます。


 ほかに​文学者ではありませんが、ワーグナーはダヌンツィオにとって不可欠な存在です。音楽、言葉、舞台を融合させた楽劇の概念に心酔し、自身の文学でも言葉による音楽的効果を追求しました。

ニーチェ的理想の破綻。タイトルの意味

​ 主人公のトゥッリオは、ニーチェの影響を受けた超人として、道徳や既成の倫理を超越して生きようとします。彼は自分の浮気を正当化し、知的な優越感に浸りますが、その実態は極端な自己中心性です。彼が妻ジュリアーナの不倫と妊娠を知ったとき、彼は寛大に許す自分という高潔な自己像に陶酔しますが、結局はそのプライドが彼を破滅へと導きます。

 ​トゥッリオは、妻との関係を官能ではなく純粋な精神的愛によって再生させようと試みます。しかし、ジュリアーナの胎内に宿る他人の子(罪なき者)という抗いようのない肉体的な現実が、彼の精神的な理想を汚し、追い詰めていきます。清らかな愛を求めながら、肉体的な嫉妬から逃れられない人間の矛盾が描かれています。


​ ​タイトルの『罪なき者』とは、不倫によって生まれた赤ん坊を指します。この赤ん坊は文字通り何の罪もありませんが、トゥッリオにとっては自分の所有物である妻を汚した不純物でしかありません。最終的に、トゥッリオは自分たちの愛の純粋さを守るために、この赤ん坊を殺害します。大人のエゴのために、真に無垢な存在が犠牲になるという皮肉がこの作品の核心です。

物語世界

あらすじ

 主人公の貴族トゥッリオは、妻のジュリアーナを放置し、愛人テレーザとの情事にふけっていました。しかし、愛人との関係に疲れ果て、心身ともに衰弱して家に戻ると、そこには以前よりもどこか神秘的で美しくなった妻の姿がありました。

 彼は身勝手にも、再び妻への情熱を燃やし始め、彼女を精神的な愛で包み込もうとします。​復縁を望むトゥッリオに対し、ジュリアーナは頑なに彼を拒みます。不審に思ったトゥッリオは、彼女が作家フィリッポと一度だけ過ちを犯し、しかもその子を身ごもっていることを突き止めます。超人を自称するトゥッリオは、嫉妬に狂う自分を抑え込み、すべてを許す高潔な夫を演じることで、彼女との絆を取り戻そうと決意します。


​ ​子供が生まれると、その赤ん坊は「罪なき者(イノチェンテ)」と呼ばれます。ジュリアーナはこの子を愛そうとしますが、トゥッリオにとってその存在は、自分の妻を汚した消えない汚点でしかありませんでした。


 赤ん坊の泣き声を聞くたびに、彼の精神的な寛容さは崩れ去り、憎悪が理性を蝕んでいきます。

クリスマスの夜、家族がミサに出かけている隙に、トゥッリオは恐ろしい計画を実行します。彼は不慮の事故を装い、赤ん坊を凍てつく冬の夜気にさらして凍死させるのです。​赤ん坊は亡くなり、周囲は悲しみに暮れますが、殺人の証拠はありません。トゥッリオはついに邪魔者を排除し、妻を独占することに成功したかに見えました。


 しかし、その先に待っていたのは救済ではなく、愛も倫理も崩壊した果ての深い虚無と孤独でした。

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