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ニール・スティーヴンスン『スノウ=クラッシュ』解説あらすじ

ニール・スティーヴンスン
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始めに

 ニール・スティーヴンスン『スノウ=クラッシュ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ニール・スティーヴンスンの作家性

『重力の虹』などで知られるピンチョンの、科学・技術・陰謀論・歴史を綯い交ぜにする百科事典的散文は、スティーヴンスンの『クリプトノミコン』や『バロック・サイクル』の直接的な先祖と言えます。スティーヴンスンはしばしばメルヴィル『白鯨』を引用します。物語を止めてまで捕鯨の技術的詳細を語り倒すメルヴィルの手法を、彼は現代の技術に応用しています。 SFの黄金時代を築いたハインラインからは、有能な専門家が問題を解決するというコンピテンス・ポーン的な側面や、リバタリアン的な政治観の影響が見られます。


​ ​物語の核となるアイデアは、文学以上に科学書や哲学書から引き出されています。​ジュリアン・ジェインズ『意識の起源:二分心の崩壊という神話』は、代表作『スノウ・クラッシュ』の言語ウイルスと脳の構造に関するアイデアの根幹をなしています。​ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツは『バロック・サイクル』の主要人物の一人として登場するだけでなく、計算機科学の先駆者としてのライプニッツの思想は、スティーヴンスンの情報に対する哲学に深く関わっています。物理学者としてのファインマンの、複雑な事象を直感的なモデルで説明するスタイルや、ナノテクノロジーへの先見性は、『ダイヤモンド・エイジ』などの作品に強い影響を与えています。


 ​スティーヴンスンはしばしばポスト・サイバーパンクの旗手とされますが、ギブスンの様式美としてのハイテクを、より物理的・技術的なリアリズムへと解体・再構築したのが彼だと言えます。 壮大なスケールで文明の変遷を描く視点は、アシモフの『銀河帝国興亡史』などの古典SFからの影響を感じさせます。

言語とウイルス。思考

​ テーマは、言語は人間の脳をハックするOSであるという着想です。コンピュータ・ウイルスがバイナリ・コードで機械を制御するように、シュメール語が人間の脳というハードウェアを直接書き換えるバイオ・ウイルスとして機能することを描いています。物語では、バベルの塔の物語を人類が共通のハックされやすい言語を捨て、多様な言語を持つことで、脳の集団感染を防いだ防御策として再構築しています。


​ ​心理学者ジュリアン・ジェインズの理論をベースに、人間がいかにして自意識を獲得したかを問い直しています。かつて人類は、右脳からの神の声を左脳が実行するだけの存在だったという仮説に基づき、作中のウイルスはその神の声を強制的に上書きして、人間を思考停止したドローンに変えようとします。高度な情報社会において、私たちの意識がいかに外部からの情報入力に対して脆弱であるかという警鐘が含まれています。

電脳世界

 政治・社会的な側面では、国家というシステムの終焉が極端な形で描かれています。連邦政府が実質的に破綻し、司法、警察、防衛までもがMr.リーのグレーター・香港のような企業フランチャイズとして切り売りされる世界です。主権が地理的な国境ではなく、どの契約に署名しているかによって決まる、超民営化社会の滑稽さと恐怖がテーマとなっています。

 「メタバース」という概念を定義した本作は、デジタルなアイデンティティと物理的な身体の乖離と統合を扱っています。現実では安アパートに住むピザ配達人であっても、メタバース内では伝説のハッカーとして振る舞える。しかし、デジタル世界での死(情報の破壊)が現実の脳にフィードバックされることで、両者の境界は崩壊します。物理的な制約から解放された情報の海において、何が個人の本質を定義するのかを問うています。

物語世界

あらすじ

 舞台は21世紀初頭。かつての超大国アメリカは経済的に破綻し、政府は実権を失っています。領土はマフィアや巨大企業が運営するフランチャイズ国家(FOQNE)として切り売りされ、人々はそれぞれの法域を行き来しながら暮らしています。​人々は悲惨な現実を逃れ、共有仮想空間メタバースに没入しています。そこは、世界中の人々がアバターとなって交流する、もう一つの巨大な社会です。


 ​主人公の名前は、ヒロ・プロタゴニストです。マフィア直営の宅配ピザ屋コザノストラ・ピザの配達員ですが、​メタバースでは伝説的なハッカーにして、世界最高の剣客です。ある日、ヒロはピザの配達中にトラブルに巻き込まれますが、スケートボードで荷物を運ぶ15歳の少女のコーリア(運び屋)のY.T.に助けられます。この出会いをきっかけに、二人は奇妙な協力関係を築くことになります。


​ ​メタバース内で、ハッカーたちの間で流行している謎のデータファイルがありました。それは「スノウ・クラッシュ」と呼ばれ、それを見たハッカーは現実世界でも脳にダメージを負い、廃人となってしまいます。​ヒロの友人であるハッカー、ダイブ(Da5id)がこのウイルスの犠牲になったことで、ヒロは独力で調査を開始します。


​ ​調査を進めるうちに、ヒロは驚くべき事実にたどり着きます。スノウ・クラッシュは単なるコンピュータウイルスではなく、人間の脳(ハードウェア)を直接書き換える古代シュメール語のコードでした。​黒幕は光ファイバーの独占者である大富豪L・ボブ・ライフです。彼はこのウイルスを使って、全人類の意識をプログラム可能な奴隷として支配しようと企んでいたのです。


​ ​物語は、洋上に浮かぶ巨大な難民の集団ラフトを舞台にした現実の戦闘と、メタバース内での高度な情報戦が並行して進みます。​ヒロはハッカーとしてのスキルと日本刀を武器にメタバースの深層へ潜り込み、Y.T.は持ち前の機動力と度胸で現実世界の陰謀を暴いていきます。


 ​ヒロ・プロタゴニストは、ウイルススノウ・クラッシュに対抗するため、古代シュメールの神話に基づいたエンキのナム・シュブ(対抗プログラム)を実行します。ヒロはこのコードをメタバース内に放流し、L・ボブ・ライフがハッカーたちの脳をハッキングして操ろうとしていた計画を阻止します。メタバース内での決闘で、ヒロは最強の刺客レイヴンを圧倒します。しかし、レイヴンは現実世界に逃げ延び、完全に決着がついたわけではありません。


​ ​もう一人の主人公、スケボー配達員のY.T.は、L・ボブ・ライフの拠点であるラフトに囚われていましたが、持ち前の機転と幸運で脱出を試みます。


​ 黒幕であるL・ボブ・ライフは自家用ジェットで逃亡を図りますが、マフィアのボスであるアンクル・エンゾの介入や、レイヴンのサイドカーに積まれていた核爆弾を巡る混乱の中で、最終的に爆死します。Y.T.は無事に母親のもとへ帰り、物語は彼女が母親と過ごす日常の描写で終わります。

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