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ディレイニー『バベル-17』解説あらすじ

ディレイニー
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始めに

 ディレイニー『バベル-17』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ディレイニーの作家性

 シアドア・スタージョンはディレイニーが最も敬愛したSF作家の一人です。スタージョンの持つ人間心理への深い洞察と繊細な文体は、ディレイニーの初期作品に強い影響を与えています。また『虎よ、虎よ!』などで知られるベスターの、鮮烈でパイロテクニックな文体とスピード感は、ディレイニーの『ノヴァ』などにその痕跡が見られます。ほかに彼はハインラインの構築する緻密な社会設定や、物語の推進力を高く評価していました。


​ ​ディレイニーの特徴は、SFに高純度の文学性を持ち込んだことです。複雑な言語遊びや多層的な意味付けにおいて、ジョイスからの影響は絶大です。​ヴァージニア=ウルフからは意識の流れや、主観的な時間の描き方において影響を受けています。プルーストは記憶と時間の再構築というテーマにおいて、ディレイニーの自伝的な視点に影響を与えました。


​ ​ディレイニーは自身の作品の中に詩を引用したり、詩人を登場させたりすることが多い作家です。ディレイニーはハート=クレインに深く傾倒しており、代表作『アインシュタイン交点』や『ノヴァ』にはクレインの詩や生涯のイメージが投影されています。​W・H・オーデンの知的な詩の構成や言語感覚は、ディレイニーが言葉が世界をどう構築するかを考える上での指標となりました。

言語と思考

 後期のディレイニーを語る上で、現代思想の影響は無視できません。権力、歴史、そしてセクシュアリティの構築に関するフーコーの理論は、ディレイニーの作品の根底に流れています。デリダの脱構築の概念は、ディレイニーが物語の構造を解体し、再構築する際の手法に大きな影響を与えました。

​ ​テーマは使用する言語が、その人の認識できる世界や思考の限界を決定するという言語学的決定論です。物語に登場する「バベル-17」という言語は、単なる通信手段ではなく、極めて効率的で論理的な思考のOSとして設計されています。主人公のリドラ=ウォンがこの言語を習得するにつれ、彼女の視覚や時間感覚、さらには物理法則の捉え方までもが、常人とは異なるレベルへと変容していく過程が描かれています。

タイトルの意味

 ​バベル-17という言語には、「私」や「あなた」を指す代名詞が存在しません。自分という概念を言語的に持たないことで、話者は客観的かつ超人的な効率性を手に入れますが、同時に良心や自己保存という概念も失ってしまいます。ディレイニーは、言語から私を奪うことがいかにして人間を完璧な道具へと作り変えるかを描き出しています。


​ ​主人公のリドラ=ウォンが軍人や数学者ではなく詩人である点は重要です。言語学的な暗号を解くために必要なのは、冷徹な計算ではなく、断片的な情報から意味を汲み取る直感や詩的想像力であることを示唆しています。詩人こそが、断絶された世界や理解不能な他者との架け橋になれる存在として肯定的に描かれています。

 1960年代のサイバネティックスの影響を受けつつ、ディレイニーは情報と肉体の関係についても触れています。​言語という情報が肉体の反応速度や生存本能にまで介入する描写は、後のサイバーパンク文学の先駆けとも言える鋭さを持っています。

物語世界

あらすじ

 ​銀河系では、地球を中心とする「同盟(アライアンス)」と、敵対する「侵略軍(インベーダー)」との間で激しい戦争が続いていました。同盟側では、軍の重要施設が次々と破壊される謎の破壊工作に悩まされており、その直前には必ずバベル-17と呼ばれる解読不能な無線通信が傍受されていました。


​ ​軍の暗号局でもお手上げだったこの謎を解くため、当局はリドラ=ウォンに協力を仰ぎます。彼女は高名な詩人であり、優れた言語学者、そして宇宙船の船長でもあるという多才な女性です。リドラはバベル-17を聴き、それが単なる暗号ではなく、高度に体系化された言語であることを見抜きます。


​ ​リドラは独自の乗組員を集め、自らの船ランボー号で、次に事件が起きると予見される宇宙基地へと向かいます。しかし、調査を進める中で、彼女の周囲では不可解な事故や暗殺未遂が相次ぎます。リドラは、乗組員の中に裏切り者がいるのではないかと疑い始めます。


 ​リドラがバベル-17の学習を進めるにつれ、彼女の思考スピードは劇的に向上し、周囲の世界がこれまでとは全く違った論理的な構造として見えるようになります。しかし、それこそがバベル-17の恐るべき罠でした。この言語には私という概念が存在しないため、深く理解すればするほど、話し手は個人の意思を失い、侵略軍にとって都合の良い生体兵器へと作り変えられてしまうのです。
 ​リドラは自分自身の精神が書き換えられる危機に瀕しながらも、詩人としての創造力を駆使して、欠落していた自己の概念をその言語の中に強引に組み込もうと試みます。


 リドラはバベル-17の持つ驚異的な分析能力を維持したまま、欠落していた自己(I)と他者(You)の概念をその言語の中に組み込み、バベル-18とも呼べる新しい言語へと作り変えました。
 記憶喪失の男ブッチャーもまた、この言語によって自己を奪われた存在でしたが、リドラが彼に「自分」という概念を教え込むことで、彼は人間性を取り戻します。

 リドラとブッチャーは、新しく書き換えられたバベル-17を武器として、アライアンスと侵略者の間の戦争を終わらせるために旅立ちます。

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