始めに
ロブグリエ『弑逆者』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロブグリエの作家性
ロブ=グリエはヌーヴォーロマンの旗手です。種々の作家に影響を受けています。
フローベールの形式主義、そして執拗なまでの客観的な描写は、ロブ=グリエの物自体を凝視するスタイルの原点です。カフカの描く出口のない迷宮や、理由のわからない不安な状況設定は、ロブ=グリエの『迷路の中で』などの作品に色濃く反映されています。
ルーセルの言語的遊戯にも、ロブ=グリエは強い関心を寄せていました。時間の断片化や、複数の視点が入り混じる複雑な構成については、フォークナーからの影響も指摘されます。
カミュは『異邦人』のリアリズム、サルトル『嘔吐』における物の実存などにも触発されました。
またロブ=グリエを語る上で外せないのが、映画の影響です。後に映画監督としても活動しますが、初期の小説からすでにカメラのレンズで捉えたような執拗な視覚描写が特徴でした。
現実と幻想
主人公ボリスが住む現実の世界と、彼が企てる王ローランの暗殺が展開される幻想の島が、明確な境界を持たずに交錯します。島での出来事がボリスの精神状態の反映なのか、あるいは島こそが真実で日常が虚構なのか、読者はその判別を奪われます。語り手自身の認識が揺らいでいるため、記述される事実そのものが不確定なものとして提示されます。
タイトルの通り王殺しが中心的なモチーフですが、これは単なる政治的暗殺ではありません。王は、世界の秩序や意味、因果律を統合する象徴です。その王を殺そうとする行為は、自分を縛り付ける意味の体系からの脱却や、実存的な抵抗を意味しています。『消しゴム』でも見られた父殺し的なニュアンスが、ここではより原初的な王殺しという形で現れています。
認識
物語の中では王の暗殺という決定的な瞬間が何度も遅延され、あるいは反復されます。出来事が前進せず、霧に包まれた島の中で同じような描写が繰り返されることで、時間は進行を止め、円環の中に閉じ込められたような感覚を読者に与えます。結末に向かって進むのではなく、ある一つのイメージの周囲を思考が堂々巡りする構造になっています。
後のロブ=グリエ作品を特徴づける冷徹で執拗な物の描写が、すでにこの作品で見られます。島の岩、波、霧、海岸線などが、主人公の感情とは無関係に、しかし主人公の強迫観念を映し出す鏡のように細密に描かれます。感情的な説明を排し、純粋に視覚的な情報だけで世界を構築しようとする試みが、この作品の不気味な静謐さを生んでいます。
物語世界
あらすじ
物語は、主人公ボリスの視点を通して、二つの設定が交互に語られます。現実の世界における海辺の町で工場勤めをするボリスの日常。退屈で無機質な生活、そして妻であるローラとの冷え切った、あるいは噛み合わない関係が描かれます。
幻想の世界は霧に包まれた孤島。そこではボリスは刺客であり、その国の統治者であるローラン王を暗殺するという使命を帯びています。
「島」のパートでは、ボリスが王を殺害するために海岸や宮殿の周囲を彷徨い、チャンスをうかがう様子が執拗に描写されます。しかし、いざ暗殺を実行しようとすると、霧が行く手を阻んだり、王の姿を見失ったり、あるいは自身の躊躇によって、決定的な行動は常に先延ばしにされます。この実行されないアクションの反復が、物語に奇妙な静止画のような質感を与えています。
物語が進むにつれ、現実の町での出来事と、島の暗殺計画がリンクし始めます。町で見かける通行人や静止した風景が、島の宮殿の衛兵や地形と重なり合い、ボリスの精神状態は次第に混濁していきます。彼にとって王殺しは、単なる政治的行為ではなく、自分を抑圧する日常や秩序そのものを破壊するための儀式へと変質していくのです。
ついにボリスは王に近づき、凶行に及びます。しかし、その結末はカタルシスをもたらしません。暗殺が成功したのか、それともすべては彼の妄想だったのか、境界線は完全に消失します。最後には、すべてが最初からなかったかのような、あるいは再び同じ地点に戻ってきたかのような、虚無的な静寂が訪れます。




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