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フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトック『救世主』解説あらすじ

フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトック
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始めに 

 フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトック『救世主』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

クロプシュトックの作家性

​ ミルトンはクロプシュトックにとって最大の先駆者です。ミルトンの叙事詩『失楽園』は、クロプシュトックが『救世主』を執筆する直接の動機となりました。キリスト教を題材とした壮大な叙事詩という形式、および人間の感情の崇高さを描く手法を学びました。彼はミルトンをキリスト教的詩人の理想と仰いでいました。


​ ​古典古代の形式からも強い影響を受けています。叙事詩の伝統的な構成やヘクサメトロスの使用において、ホメロスの影響が見られます。クロプシュトックの『オード』に見られる自由リズムは、ピンダロスの祝勝歌などの力強いリズム感や高揚感に触発されたものです。


​ ​当時のイギリス文学で流行していた、内省的でセンチメンタルな自然観を持つ詩人たちも彼の感性に影響を与えました。​『夜想(Night Thoughts)』で知られるエドワード=ヤングからは、死や不滅、孤独といったテーマへの関心を受け継ぎました。​ジェームズ=トムソンは『四季』の著者ですが、自然描写の中に宗教的な法悦を込める手法が、クロプシュトックの自然詩に反映されています。


​ ​ヨハン=ヤーコプ=ボードマーとヨハン=ヤーコプ=ブライティンガーは当時のドイツ文学界を支配していた理性重視・規則重視のフランス流文学観(ゴットシェートなど)に反対し、想像力と感情の重要性を説きました。彼らがミルトンを高く評価していたことが、若きクロプシュトックが自身の進むべき道を見出すきっかけとなりました。

人間の救済

 作品のテーマは、キリストの受難、死、そして復活を通じた人類の救済です。物語は地上だけでなく、天国、地獄、そして宇宙全体を舞台に展開されます。神の計画がいかにして遂行され、悪が敗北し、人間が神との和解を果たすかが壮大なスケールで描かれています。


​ ​ホメロスやミルトンの叙事詩が外的な行動や事件を重視したのに対し、クロプシュトックは登場人物の心の動きに焦点を当てました。キリスト自身の苦悩、弟子たちの揺れ動く感情、天使や堕天使たちの心理が執拗なまでに描写されます。これは、後にドイツ文学の伝統となる内面性の先駆けとなりました。読者がキリストの受難を追体験し、共に涙し、宗教的な法悦を感じることを目的としています。

啓蒙主義を超えて

 当時の啓蒙主義が重んじた明晰さや理性を超え、人間の理解を絶する崇高なものを表現することが大きなテーマです。神の偉大さや宇宙の広大さを、既存の言葉の枠組みを壊すような力強い文体で描こうとしました。理性の納得ではなく感情の爆発を通じて神聖なものに触れようとする、感受性の極致が示されています。


​ クロプシュトックにとって、この作品の隠れたテーマはドイツ語という言語自体の救済と確立でもありました。それまで野蛮で詩に向かないとされていたドイツ語に、古代ギリシア的な格調と、これまでにないリズムを与えました。詩人を神の啓示を伝える預言者のような存在として位置づけ、創作行為そのものを神聖な儀式へと高めました。

物語世界

あらすじ

 物語は、オリーブ山でキリストが父なる神に対し、人類の罪を贖うための犠牲になることを再確認する場面から始まります。神の玉座や天使たちの合唱が壮麗に描かれます。一方、地獄ではサタンがキリストの計画を阻止しようと画策します。ここで、サタンの仲間でありながら自らの反逆を後悔し、憂鬱に沈む堕天使アバドナが登場します。彼は物語全体を通じて、読者の同情を誘う重要な狂言回しとなります。


​ ​物語の核心である、エルサレムでの受難が描かれます。​最後の晩餐とゲッセマネでは、キリストの孤独な祈りと、弟子たちの動揺が丹念に描写されます。ユダが単なる悪人ではなく、絶望と悪霊の誘惑に引き裂かれる悲劇的な人物として描かれるのが特徴です。裁判、嘲笑、そしてゴルゴタの丘での磔刑。キリストが息を引き取った瞬間、全宇宙が震撼し、死者たちが墓から立ち上がる超自然的な光景で前半が締めくくられます。


​ ​キリストの体が墓にある間、彼の霊魂が何を行っていたかが描かれます。キリストは地獄に降り立ち、死の権威を打ち破ります。

 ついにキリストは復活します。エマオの途上の弟子やトマスの前に姿を現し、彼らの疑念を晴らし、歓喜へと導くプロセスが心理的に深く掘り下げられます。


​ ​物語は地上を離れ、再び宇宙的な視点へと戻ります。地上での別れを告げたキリストは、雲に乗って天へと昇っていきます。昇天したキリストが神の右の座につき、全人類の歴史を総括する最後の審判のヴィジョンが示されます。宇宙のすべての被造物が神の愛と救済を讃える壮大な賛歌の中で、物語は幕を閉じます。

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