始めに
ボーマルシェ『セビリアの理髪師』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ボーマルシェの作家性
ボーマルシェは、古典的な喜劇の伝統を受け継ぎつつ、当時の新しい思想を巧みに取り入れました。
フランス喜劇のモリエールは、ボーマルシェにとって最大の基盤です。「抜け目のない召使い」と「愚かな主人」という対立構造や、ウィットを継承します。
啓蒙思想家であり、演劇理論家でもあったディドロの影響は、ボーマルシェの初期作品に大きいです。ディドロが提唱したドラム=ブルジョワという、悲劇と喜劇の中間にある、市民の日常生活を真面目に描く演劇形式に影響を受けました。
アランルネ=ルサージュの影響もあります。ピカレスク小説の『ジル=ブラース物語』の著者です。スペインを舞台にした設定や、社会の荒波を機転一つで渡り歩く庶民の姿はフィガロに重なります。
またヴォルテールはからの影響も大きいです。
階級社会に抗って
オペラと異なり、原作におけるフィガロは、単なる陽気な理髪師ではありません。彼は何度も職を失い、世間の荒波に揉まれてきた苦労人です。貴族として生まれただけの人間よりも、自分の腕と才覚で生きる平民の方がいかに知的で優れているかを体現しています。当時の特権階級への皮肉が込められています。
ロジーナを閉じ込める後見人バルトロは、単なる古い権威や因習の象徴です。ロジーナがバルトロの束縛から逃れようとする姿は、抑圧された市民が自由を求める姿と重なります。迷信や権威ではなく、論理と機転で問題を解決していく展開は、当時の啓蒙思想の影響を強く受けています。
これは三部作の第1部です。第1部(理髪師)では、伯爵とフィガロは、まだ協力関係にあります。第2部(フィガロの結婚)では、伯爵が特権を振りかざしてフィガロの婚約者を奪おうとする、より過激な階級闘争へと発展します。
物語世界
あらすじ
セビリアの街角、夜明け前の暗がりに潜むアルマヴィーヴァ伯爵の姿から物語は始まります。彼はマドリードで見かけた美しい娘ロジーナを追い、名前も身分も隠してこの地までやってきました。彼は彼女が自分の地位や財産ではなく、自分という人間そのものを愛してくれることを願い、貧しい学生「リンドール」と名乗っています。
そこに現れたのが、かつて伯爵の従僕であり、今はセビリアで理髪師として、あるいは外科医や薬剤師の真似事までして器用に生き抜いているフィガロです。二人は再会を喜び、フィガロは伯爵の恋を成就させるための軍師役を買って出ます。
ロジーナは、気難しく疑り深い老医師バルトロの厳重な監視下に置かれていました。バルトロは彼女を単なる被後見人としてではなく、彼女が持つ多額の持参金を自分のものにするために、自ら彼女と結婚しようと企んでいます。ロジーナは窓からリンドール(伯爵)へ向けた手紙を落とすなどして密かに応えますが、バルトロの警戒は強まる一方です。そこでフィガロは、伯爵に「宿舎を割り当てられた酔っ払いの兵士」に変装してバルトロの家に乗り込むよう提案します。酔っ払っていれば警戒心が緩み、家の中に留まる口実ができると考えたのです。
しかし、この最初の潜入作戦は、バルトロが兵士の宿舎割当免除の証明書を持ち出してきたことで、激しい言い争いに発展し、手紙を渡すことには成功するものの、伯爵はあえなく追い出されてしまいます。
次にフィガロが立てた策は、さらに巧妙なものでした。伯爵を、ロジーナの音楽教師であるバジリオの弟子「アロンゾ」に変装させます。アロンゾは「バジリオ先生が急病なので、代わりの稽古に来た」と言って潜入し、さらにバルトロの信用を得るために、リンドールがロジーナに送った手紙を「偶然手に入れた」と嘘をついて差し出します。
これによりバルトロはアロンゾを味方だと信じ込み、二人の密会を許してしまいます。レッスンの最中、伯爵とロジーナは愛を囁き合いますが、そこへ何も知らない本物のバジリオが現れるという絶体絶命のピンチが訪れます。しかし、フィガロの機転と伯爵が握らせた大金による口封じで、なんとかバジリオを追い返すことに成功します。
その間、フィガロはバルトロの髭を剃るフリをして彼の視界を遮り、バルコニーの鍵を盗み出すことに成功します。ところが、バルトロはアロンゾとロジーナの親密な様子を盗み聞きしてしまい、変装を見破って二人を追い出してしまいます。危機感を感じたバルトロは、その日のうちにロジーナと結婚式を挙げようと公証人を呼びにやり、一方でロジーナには「リンドールは伯爵のために女を漁っているペテン師だ」と嘘を吹き込みます。絶望したロジーナは自暴自棄になり、バルトロとの結婚を承諾してしまいます。
嵐の夜。フィガロと伯爵は、盗んだ鍵を使ってバルコニーからロジーナの部屋へ忍び込みます。ロジーナはリンドール(伯爵)を罵りますが、そこで伯爵は初めて自分の真の正体を明かし、地位も名誉も投げ打って彼女を愛していることを伝えます。誤解が解け、二人が喜び勇んで逃げようとしたとき、すでにバルトロが用意した公証人が到着していました。
絶体絶命かと思われた瞬間、フィガロは機転を利かせ、その公証人を丸め込んで「アルマヴィーヴァ伯爵とロジーナ」の結婚契約書を作成させてしまいます。戻ってきたバルトロは激怒しますが、伯爵が「ロジーナの持参金はすべてお前にやる」と提案すると、欲深いバルトロはその条件を飲み、最終的に二人の結婚を認めざるを得なくなります。
こうして、権威に凝り固まった老人を庶民の知恵が打ち負かし、若い恋人たちの勝利で幕を閉じます。




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