はじめに
大デュマ『ブラジュロンヌ子爵』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
シェイクスピアとスコットの歴史劇
大デュマはユゴーなどと並んで、フランスのロマン主義を代表する作家として知られています。
特にシェイクスピアに影響され、またそのフォロワーであるウォルター=スコットをライバルのように見て影響もされました。
シェイクスピアの史劇ではフォルスタッフに代表される架空のキャラクターを設定してて虚実を交えたダイナミックな歴史劇が展開されますが、本作も同様のコンセプトになっています。
新聞連載
フランスではエミール=ド=ジラルダンの『プレス』とアルノー=デュタクの『世紀』が1836年に発行されて、新聞が定着しつつあり、新聞は定期購読者を繋ぎ止めるために連載小説を掲載しました。
バルザック、ウージェーヌ=シュー、フレデリック=スーリエ、そしてアレクサンドル=デュマは、新聞連載を代表する作家になりました。
三部作の構成
本作は『ダルタニャン物語』3部作の第一作目です。ブルボン朝時代に活躍した実在のフランスの軍人ダルタニャンをモデルにします。かつてダルタニャンの下で銃士をしていた文人クールティル=ドゥ=サンドラスの執筆した偽回想録『ダルタニャン氏の覚え書き』があり、これを種本として『ダルタニャン物語』が構想されました。
『ダルタニャン物語』におけるダルタニアンは史実より年齢は10歳ばかり年上の1605年生まれとされている。これにより1627年からのラ=ロシェルの包囲戦に参加しています。
『三銃士』では、史実同様少年時代のダルタニャンはパリに上京して銃士となります。アトス、ポルトス、アラミスら三銃士と友人になり、ラ=ロシェルの包囲戦に参加しリシュリュー枢機卿の陰謀を打ち破ります。
『二十年後』では、前作より20年後になり、ダルタニャンと三銃士が、1648年から1649年のフランスとイギリスで活躍します。フロンドの乱とイングランド内戦(清教徒革命)を舞台にし、ダルタニャンも40歳の壮年です。
『ブラジュロンヌ子爵』ではそのさらに10年後を舞台にします。1660年、チャールズ2世の王政復古から仏蘭戦争のマーストリヒト包囲戦でダルタニアンが戦死するまでを描きます。三銃士はアラミスのみ生存します。
ブラジュロンヌ子爵
タイトルになっているブラジュロンヌ子爵とは、アトスの息子ラウル=ド=ブラジュロンヌ子爵のことです。
一応ラウルが主人公なのですが、実質的には三銃士とダルタニアンらが主人公で、またラウル自体の扱いも悪いです。ラウルが老いを迎えた三銃士らの後継になる展開を予感させますが、そうはなりません。
王弟妃アンリエットの侍女としてラウルの恋人ルイズ=ド=ラ=ヴァリエールが、ブロワからパリの王宮に入り、やがてルイズはルイ14世と恋中になってしまいます。ふとしたことからそれを知ったラウルは、失意の中ボーフォール大公のアフリカ遠征軍に加わり、戦死するという惨めなキャラクターです。
鉄仮面
ルイ14世の治世に実在した謎の囚人(「鉄仮面」)の正体は、当時から様々な憶測を生みました。現在も、その正体は分かっていません。
ルイ14世の兄弟とする説はドラ=キュビエールの史話が初出で、これを大デュマが本作の下敷きにしています。
また王族であったりする正体不明の騎士は中世から騎士道ロマンスで典型的な表象で、先述のスコット『アイヴァンホー』における「黒い騎士」などもその例です。
物語世界
あらすじ
『二十年後』より10年後の1660年。
清教徒革命によりイギリスを追われていたチャールズ2世が、ブロワに滞在するルイ14世に王政復古のための軍資金救援を求めて訪ねます。ルイ14世は前作から宰相ジュール=マザランに実権を握られ、チャールズ2世を支援する権限はないので、断ります。これにダルタニャンはルイ14世に幻滅し、チャールズ2世の復位を支えようと退役し、イギリスへ渡る事にします。また元三銃士のアトスも、チャールズ2世の訪問を受け、先王チャールズ1世との誓約を果たすときだと、イギリスへ向かいます。
イギリスは清教徒革命以来混乱が続き、イングランド共和政の指導者モンク将軍をチャールズ2世の味方としたダルタニャンとアトスの活躍で、イギリスの王政復古は成ります。
翌年、宰相マザランが亡くなり、ルイ14世の親政となります。イギリスとフランスの友好のため、イギリスのアンリエット王女と、ルイ14世の弟オルレアン公フィリップが結婚します。王弟妃の侍女としてラウル=ド=ブラジュロンヌ子爵の恋人ルイズ=ド=ラ=ヴァリエールが、ブロワからパリの王宮に来ます。
アトスは、息子ラウルからルイズへの結婚の意志を打ち明けられ、ルイ14世にその許可を願います。しかしルイ14世はアトスが結婚に不本意だと悟り、ラウルをイギリス宮廷へ大使として派遣して、フランスから離します。
王弟妃アンリエットとルイ14は不倫関係になってしまい、醜聞が広がるのを恐れたルイ14世とアンリエットは、アンリエットの侍女ルイズ=ド=ラ=ヴァリエールを隠れ蓑にし、ルイ14世は侍女ルイズに求愛しているという噂を流します。ルイズは、ルイ14世の神々しさから、恋に落ちます。またルイ14世もルイズに惹かれ、純粋なルイズと情熱的なルイ14世は愛し合います。宮廷ではルイズと国王の恋愛関係が広まります。
ラウルはフランス宮廷へ戻るものの、ルイズの部屋に入ると、隠し通路から寵姫ルイズの部屋へやってきたルイ14世と鉢合わせます。
アラミスが仕える財務卿ニコラ=フーケは国王を凌ぐ財力により、国王の粛清の対象となります。ルイ14世の出生の秘密を知るアラミスは、フーケを救い、自身がローマ法王になるために王位簒奪を企み、ポルトスを仲間にします。
ルイ14世は双子でした。双子の弟フィリップは、王位継承争いを危惧した先王の命令により、存在を隠されてある屋敷で育てられました。アンヌ太后とシュヴルーズ夫人だけがフィリップの屋敷を訪れ、アラミスはそれに追従したことがありました。フィリップは、現在はバスティーユ牢獄で囚人となっています。
イエズス会管長のアラミスはイエズス会員のバスティーユ長官ベーズモーを従わせることができました。アラミスは、フィリップをバスティーユ牢獄から脱出させ、フーケが国王を招待した饗宴にて、ルイ14世とフィリップを入れ替えます。しかし、フーケの正義感から、この作戦は失敗します。
アラミスはポルトスを連れて脱出し、ベル=イル=アン=メール要塞へ立て籠もります。国王の艦隊がベル=イルを包囲し、王軍が島へ上陸、ポルトスはロクマリアの洞窟でアラミスを海上へと逃し、崩落した岩に押しつぶされて亡くなります。アラミスは悲嘆にくれるものの、スペインへと亡命します。
ダルタニャンは、ルイ14世のもと、銃士隊長として奮闘します。フーケを逮捕し、鉄仮面の囚人フィリップをサント=マルグリット島へ護送します。
ブロワでは、屋敷に帰って失意のなか暮らすラウルの元へ、ボーフォール大公がやってきて、アフリカ遠征の副官にしようとします。ラウルは、ボーフォール大公のアフリカ遠征軍に加わることにします。アトスは、無謀だと思うもののら息子ラウルを行かせます。やがてラウル戦死の報がアトスのもとへきて、アトスもその後息を引き取ります。
4年後、ルイ14世の愛は、モンテスパン夫人に移り、ルイズは幻滅します。ダルタニャンは、スペイン大使アラメダ公爵となってフランスにきたアラミスと、抱擁します。
フランスとオランダが開戦すると、ダルタニャンはオランダ遠征軍司令官になり、12の都市を陥落させます。指揮を取るダルタニャンの元へ、ルイ14世から元帥杖が送り届けられますが、そのときダルタニャンの胸にオランダ軍の銃弾が命中します。ダルタニャンは、オランダ軍の要塞の上の白旗を見届け、「アトス、ポルトス、また会おう。アラミス、永遠にさようなら」と、つぶやきます。
参考文献
・アンドレ=モーロワ著、菊地映二訳『アレクサンドル・デュマ』




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