始めに
ロブグリエ『消しゴム』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロブグリエの作家性
ロブ=グリエはヌーヴォーロマンの旗手です。種々の作家に影響を受けています。
フローベールの形式主義、そして執拗なまでの客観的な描写は、ロブ=グリエの物自体を凝視するスタイルの原点です。カフカの描く出口のない迷宮や、理由のわからない不安な状況設定は、ロブ=グリエの『迷路の中で』などの作品に色濃く反映されています。
ルーセルの言語的遊戯にも、ロブ=グリエは強い関心を寄せていました。時間の断片化や、複数の視点が入り混じる複雑な構成については、フォークナーからの影響も指摘されます。
カミュは『異邦人』のリアリズム、サルトル『嘔吐』における物の実存などにも触発されました。
またロブ=グリエを語る上で外せないのが、映画の影響です。後に映画監督としても活動しますが、初期の小説からすでにカメラのレンズで捉えたような執拗な視覚描写が特徴でした。
神話パロディ
一見すると24時間以内に起きた殺人事件を捜査官が追うという伝統的な探偵小説の枠組みをとっています。しかし、その結末は捜査官ワラスが犯人を捜す過程で、最終的に自らターゲットを殺害してしまうというパラドックスに陥ります。原因の前に結果が始まり、捜査そのものが事件を引き起こすという、従来の物語の論理を根底から覆しています。
本作はソポクレスの悲劇『オイディプス王』を現代の都市空間に置き換えた、一種のパロディであり再構築です。オイディプスが父を殺し母を娶るという予言から逃れられなかったように、主人公ワラスもまた、意図せずして殺人を完遂するという役割に追い込まれていきます。作中に登場する謎かけや、24時間という時間設定、主人公の足の傷など、神話的モチーフが随所に散りばめられています。
タイトルの意味
ロブグリエは、従来の小説が物の背後に意味や感情を読み取ろうとすることを拒絶しました。切られたトマトの断面や、街のレイアウト、そしてタイトルにもなっている消しゴムなど、事物が人間の感情とは無関係に、ただそこに存在するものとして細密に描写されます。読者は登場人物の内面ではなく、カメラのレンズのような冷徹な視線を通して世界を観察させられます。
タイトルの消しゴムは、物語の中で起きた出来事が上書きされ、あるいはなかったことにされる不確かな現実を象徴しています。冒頭と結末が奇妙に繋がり、時間が前進しているようでいて、実はある一点の周囲を円環的に巡っているような感覚を読者に与えます。 捜査が進むにつれて事実は消去され、読者は何が実際に起きたのかという確信を失っていきます。
物語世界
あらすじ
テロ組織の実行犯ガランが、経済学者のデュポン教授を暗殺しようと発砲します。しかし、弾丸はそれ、デュポンは軽傷を負っただけで生き延びます。デュポンは身の危険を感じ、自分が死んだというデマを流して、密かに友人のクリニックへ身を隠します。
中央から派遣された特別捜査官ワラスが、この殺人事件を捜査するために街に到着します。彼はこの街の地理に不慣れで、霧が立ち込める運河沿いの迷路のような街を、24時間にわたって彷徨うことになります。捜査の過程で、ワラスは文房具店を回り、ある特定の銘柄の消しゴムを探し求めます。彼は街のあちこちで、オイディプス神話を想起させるモチーフ(三叉路、足の痛み、スフィンクスの謎かけを思わせる酔っ払いの問いなど)に遭遇しますが、それらが何を意味するのかは本人にも読者にも曖昧なままです。
事件からちょうど24時間後。ワラスは、現場となったデュポンの屋敷に犯人が戻ってくるはずだと確信して待ち伏せます。一方、隠れていたデュポンもまた、私物を取りに自分の屋敷へ戻ってきます。暗闇の中で人影を見たワラスは、それこそが犯人であると思い込み、銃を放ちます。前夜に生き延びたデュポンは、彼を助けに来たはずの捜査官ワラスの手によって射殺されることで、物語は完結します。




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