始めに
ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ボームの作家性
最も直接的な構成上の影響はルイス=キャロルです。少女が異世界へ迷い込み、奇妙な住人たちと出会うという枠組みは共通しています。しかし、ボームはアリスのような不条理で冷淡な夢ではなく、ドロシーという主体性を持ったアメリカ的な少女を描くことで、キャロルへの回答としました。
アンデルセンとグリム兄弟を愛読していましたが、同時に子供を怖がらせるための残酷な描写や道徳的な説教を時代遅れだと考えていました。『オズ』の序文において、ボームは現代の童話は驚きと楽しみだけを追求すべきであり、悪夢は排除されるべきだと宣言しています。
マチルダ=ジョスリン=ゲージは義母です。彼女は著名なサフラジスト(女性参政権論者)であり、著書『婦人・教会・国家』で宗教的な女性抑圧を批判しました。 北と南の善い魔女、そしてドロシーの勇気には、マチルダが説いた女性の自立心が反映されています。彼女の影響により、ボームは魔女を単なる邪悪な存在ではなく、知恵や力を持つ象徴として多角的に描きました。
ボーム自身が神智学協会の会員であったことは、彼の世界観に深い影響を及ぼしています。 カカシたちが自分に欠けているものを求めて旅をするプロセスは、神智学における自己の神性を発見するプロセスと重なります。目に見える世界の裏側に、より高次の真理があるという発想は、当時の神秘思想的な潮流を汲んでいます。
ボームはディケンズのファンであり、劇団を主宰していた頃にはディケンズ作品を上演することもありました。『オズ』に見られる、ブリキの木こりのような産業革命や労働を想起させるキャラクターや、貧困と豊かさの対比には、ディケンズ的な社会観察眼の片鱗が見て取れます。
発見
この物語のテーマは、自分が求めているものは、実はすでに自分の中に備わっているという皮肉と救いです。知恵を求めるカカシは旅の途中で何度も名案を出し、仲間を救っています。心を求めるブリキの木こりは、虫を踏んでしまっただけで涙を流すほど、誰よりも繊細な心を持っています。勇気を求めるライオンは、恐怖を感じながらも、仲間のために危険に立ち向かっています。彼らが求めた魔法は、実は自らの行動によってすでに証明されていたという構図です。
偉大で恐ろしいオズの正体は、実はカーテンの裏で機械を操作していた平凡な手品師に過ぎませんでした。これは、強大な権力や権威は、しばしば人々が作り上げた幻想に過ぎないという批判的な視点を示唆しています。オズは魔法で彼らを変えたのではなく、彼らが自信を持つためのきっかけを与えただけなのです。
社会批判
ドロシーが繰り返す「我が家に勝る所なし」という言葉は、見知らぬ黄金の都や魔法の世界よりも、平凡で厳しい現実の中にこそ自分の居場所があるという、現実への回帰を象徴しています。
多くの歴史家や経済学者が指摘する有名な説として、当時のアメリカの金銀複本位制を巡る政治風刺という側面があります。黄色いレンガの道は金本位制、銀の靴は銀本位制、カカシは知恵がないと見なされていた農民、ブリキの木こりは非人間的な労働を強いられる工場労働者です。
物語世界
あらすじ
カンザスの農場に暮らす少女ドロシーは、巨大な竜巻に家ごと巻き込まれ、魔法の国オズへと飛ばされてしまいます。家が着地した場所には、人々を苦しめていた東の魔女が下敷きになって死んでいました。ドロシーは北の魔女から感謝され、死んだ魔女が履いていた銀の靴(映画では赤)を授けられます。
ドロシーはカンザスへ帰る方法を教えてもらうため、偉大な魔法使いが住むエメラルドの市を目指します。その道中で、欠落感を抱えた3人の仲間と出会います。知恵(脳)が欲しいカカシ心(心臓)が欲しいブリキの木こり、勇気が欲しいライオン。彼らはそれぞれの願いを叶えてもらうため、ドロシーと共に黄色いレンガの道を歩み始めます。
一行はエメラルドの市に到着し、支配者オズに謁見します。しかし、オズは願いを叶える条件として、恐ろしい西の魔女の退治を命じました。
死闘の末、ドロシーは偶然浴びせた水によって西の魔女を消滅させることに成功します。市に戻った一行は、驚くべき真実を目の当たりにします。偉大な魔法使いだと思われていたオズの正体は、かつて気球でこの国に紛れ込んだだけの平凡な手品師の老人でした。彼は魔法を使えませんでしたが、知恵を絞って仲間に自信という名の贈り物を与えます。カカシには籾殻と針を詰めた頭、木こりには絹でできたハート、ライオンには勇気が出るという飲み物。これらはプラセボのようなものでしたが、旅の中で既に能力を発揮していた彼らにとって、それは自分を信じるための決定的な契機となりました。
オズは気球でドロシーを連れ帰ろうとしますが、失敗して一人で去ってしまいます。絶望するドロシーでしたが、南の魔女グリンダからあなたが履いている銀の靴には最初から持ち主をどこへでも運ぶ力があると教えられます。ドロシーが靴の踵を3回打ち鳴らすと、彼女は無事にカンザスの家族のもとへと戻ることができました。




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