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ユルスナール『黒の過程』解説あらすじ

ユルスナール
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始めに

 ユルスナール『黒の過程』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ユルスナールの作家性

 ユルスナールの思想の根底には、幼少期から父に叩き込まれた古典の教養があります。​ソポクレス、ピンダロス、プラトンなど、ギリシア悲劇や哲学から、人間存在の悲劇性と調和を学びました。

​ ​翻訳を多く手がけ、海外作家の影響も受けています。​ヴァージニア=ウルフの『波』をフランス語に翻訳しましたが、意識の流れや、時間論に共通点が見られます。​ヘンリー=ジェイムズは『メイジーの知ったこと』を翻訳していて、心理描写の緻密さや、洗練された文体に影響を受けました。​コンスタンティノス=カヴァフィスの歴史ものにも影響されています。

​ ラシーヌはフランス古典主義悲劇の巨匠ですが、そこからの刺激があります。​サン=シモン公爵からは、歴史を個人の視点から再構築する手法に影響を受けました。

タイトルの意味など

『黒の歴程』は16世紀、ルネサンスから宗教改革へと揺れる欧州を舞台に、架空の医師・錬金術師ゼノンの生涯を描いています。タイトルの「黒の歴程」とは、錬金術における第一段階「黒化(ニグレド)」を指し、不純物を焼き尽くし、物質を根源的な状態に還元するプロセスを意味します。

​ ​本作において錬金術は知の探究のメタファーです。ゼノンは既存の宗教、道徳、慣習といった社会的な不純物を自分から削ぎ落としていきます。何ものにも囚われない精神に至るための過酷なプロセスの象徴であり、自分自身を実験台にするような孤独な知の探究が描かれます。

​ ​16世紀は科学的知性が芽生えつつも、依然として宗教的ドグマが絶対的な支配力を持っていた時代です。解剖学や自由思想に傾倒するゼノンは、教会や国家から異端者として追われる身となります。​ゼノンは医師として、人間の肉体を冷徹に、かつ畏敬の念を持って観察します。

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物語世界

あらすじ

 庶子のゼノンは、ブルッヘの裕福な銀行家リグレ家に養子として迎えられます。ゼノンは20歳で聖職者としての安楽な生活を捨て、真理を求めて家を出ます。

 ブルッヘを去った青年時代、ゼノンは貪欲にも知識を求めてヨーロッパ各地を放浪し、その科学的業績によって天才という伝説的な評価を残す一方で、無神論的な態度ゆえにキリスト教指導者の怒りも買います。

 ゼノンの旅は故郷のブルージュから、遠くはグスタフ=ヴァーサの宮廷まで及び、その不運な息子エーリクを指導し、諫言したり、エカテリーナ王妃のルーブル美術館で毒殺犯コジモ=ルッジェリに遭遇したり、オスマン帝国の領土まで行き、その海軍のために原始的な火炎放射器を設計したりします。

 一方、ゼノンの母ヒルゾンダはアナバプテスト運動に関与し、ミュンスターの反乱とヴァルデック司教率いる軍による鎮圧を目撃します。その後、彼女はミュンスターで亡くなります。

 ゼノンの従弟アンリ=マクシミリアンは、異なる道を歩みます。若い頃、彼はフランス王国軍に志願入隊し、冒険に満ちたロマンチックな人生を求めました。兵士として生涯を過ごし、チェレゾーレの戦いにも参加します。この戦いでアンリ=マクシミリアンは火縄銃の弾丸に倒れ、瀕死の状態になります。後に彼はゼノンに、蘇生する前にチェレゾーレで垣間見た「ブラックホール」について語ります。数年後、アンリ=マクシミリアンはシエナ包囲戦中に帝国軍の待ち伏せ攻撃を受け、突然戦死します。彼の詩集は浅い墓に埋葬され、愛した貴族のピッコロミーニ夫人を称えて フォンテブランダの縁に刻まれた碑文だけが残されました。

 やがて偽名を使ってブルージュに戻ったゼノンは、友人であり同じく無神論者であるヤン=マイヤーズにのみ秘密を打ち明けます。彼の若い助手シプリアンがアダム派の非合法なカルトに巻き込まれると、ゼノンの正体が暴かれ、無神論の罪などで火刑に処せられます。

 火刑に処される前に、ゼノンは密輸した剃刀で静脈を切断し、獄中で自殺するのでした。

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