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ボウルズ『シェルタリング=スカイ』解説あらすじ

ボウルズ
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始めに

 ボウルズ『シェルタリング=スカイ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ボウルズの作家性

 ガートルード=スタインは​ボウルズの人生を決定づけた最大の恩師です。1931年に彼女を訪ねた際、ボウルズにタンジェ(モロッコ)へ行くようにと勧めたのが彼女でした。彼女のシンプルで反復的な散文スタイルは、ボウルズと重なります。


 ​ボウルズが描く理不尽な運命や不条理な恐怖の根底には、カフカの影響が色濃くあります。登場人物が自らの意志とは無関係に、逃れられない悪夢に引きずり込まれていく感覚が通底します。またボウルズは幼少期からポーを愛読し、ゴシック小説から影響されました。


​ ​フランス滞在中に交流があったジッドからも、思想的な影響を受けています。『背徳者』に見られるような、北アフリカの地で西洋的な道徳観が剥がれ落ちていく過程は、『シェルタリング・スカイ』のプロット重なります。

旅とアイデンティティ

「旅行者(トラベラー)」と「観光客(ツーリスト)」の境界の区別は、作品全体を貫く概念です。​観光客は自分の家を背負って移動し、常に帰る場所がある人々です。​旅行者は時間の感覚を捨て、場所から場所へと移動し続け、もはやどこにも属さない人々です。


 ​主人公ポートとキットは自らを「旅行者」と定義しますが、それは同時に、文明社会からも自分自身からも切り離された根無し草の状態に陥っていく予兆でもあります。

タイトルの意味

 タイトルは「シェルタリング・スカイ(守ってくれる空)」です。


 ​ポートは、空を背後にある暗黒の虚無から、私たちを守ってくれている薄い膜だと考えています。​もしこの空が破れてしまえば、人間は宇宙の圧倒的な無意味さと、逃げ場のない孤独に直面してしまいます。砂漠の過酷な環境は、その膜を剥ぎ取っていく装置として機能します。


​ ​夫婦であるポートとキットは、愛し合いながらも互いの魂に触れることができません。​彼らは関係を修復するために砂漠へやってきましたが、言葉を尽くせば尽くすほど心理的な距離は広がります。人間は結局、どこまでいっても独りであるという冷徹な真理が、異国の地で浮き彫りになっていきます。


​ ​サハラ砂漠という自然、そして西洋的な価値観が通用しない文化圏の中で、主人公たちのアイデンティティは崩壊していきます。​ポートを襲う病(チフス)や、その後のキットの彷徨は、人間がコントロールできると思っていた生や理性が、自然や運命の前ではいかに無力かを突きつけます。


 物語が進むにつれて、空の膜が少しずつ剥がれていって、最後には完全に破れるのでした。

物語世界

あらすじ

 舞台は北アフリカの港町。裕福なアメリカ人知識人ポーター=モレスビー(「ポート」)は、一つの活動や場所に長く留まることができない人物です。そのため、彼は若い頃にヨーロッパで、そして南米での戦争中に、何年も絶えず旅を続けています。ポートは妻のキャサリン(「キット」)と旅をしており、この旅で、知り合いのタナーが初めて彼らに加わります。

 他の目的地への航路が利用できなかったため、3人は北アフリカへと旅します。北アフリカに対する彼らの印象はネガティブで、ポートはすぐに引き返そうとするものの、キットとタナーにこの旅を強く勧めていたため、面目を失いたくないと思いとどまります。


 スマイルという名のアラブ人が夜、ポートを美しい娼婦マルニアのテントへと案内します。スマイルは通訳を務め、マルニアの頼みで、サハラ砂漠のお茶の伝説をポートに語ります。

 ポートがマルニアと寝ている間に、彼女は彼の財布を盗みます。彼はそれに気づき、なんとか取り戻すものの、彼女が警報を鳴らしたため、慌てて逃げ出します。

 ポートはホテルに戻るものの、そこにはすでに他の英語を話す人々が到着しており、今では地元の人々よりも彼らといっしょにいる方がましだと感じます。母と息子のライルズ母子らでした。

 ライルズらは車を持っており、モレスビー夫妻にブーシフまで送ってあげようと申し出ます。3人の追加乗客と荷物を乗せるにはスペースが足りず、キットは初対面でライルズ母子を嫌っていたため、ポートだけが申し出を受け入れます。

 キットとタナーは列車で移動します。タナーはこの機会を利用してキットをシャンパンで酔わせ、ホテルに到着するとベッドに横になります。

 アイン=ブーシフでは、キットとポートが初めて二人きりの時間を過ごし、砂漠の平原へと自転車で旅に出ます。果てしなく続く美しい風景の中で、ポートは自分自身への深い洞察を得ます。二人はホテルに戻り、その夜遅く、キットに内緒で、ポートは再び自転車で砂漠へと旅立ちます。

 数日後、ポート、キット、そしてタナーは夜行バスでアイン=クロルファに向かいます。町はハエが大量発生し、ホテルのベッドにはトコジラミが大量発生し、彼らの滞在は耐え難いものになります。次の南行きのバスは4日後でした。

 この頃には、ポートはタナーを何とかして追い払いたいと強く思います。ライルズ一家が思いがけずアイン=クロルファにやって来ると、ポートはその状況を利用し、タナーを乗せてメサドまで連れて行く手配をします。タナーは後にブー=ヌーラでモレスビー一家と再会する予定でした。

 ポートは自分とキットのために、アラブ商人アブデスラム=ベン=ハッジ=チャウイの家にお茶に招待するものの、二人は未だ他人同士のままです。

 ホテル従業員のモハメッドは、体調を崩したポートを地元の売春宿に連れて行きます。彼はそこで踊る盲目の少女に強い欲望を抱くものの、モハメッドがポートのために情熱的な一夜を準備する前に、彼女は姿を消します。

 ブー=ヌーラで、ポートは駐屯地の司令官ダルマニャック中尉を訪ね、パスポートを紛失したことを報告します。ポート自身は、ゲストハウスのオーナーで中尉の個人的な友人であるアブデルカデルを盗難の容疑者として告発するものの、エリック=ライルズがアイン=クロルファにあるポートの部屋をうろついているのも目撃されていました。中尉は、盗まれたパスポートはメサドの外人部隊本部に見つかる可能性が高いと疑います。

 書類は確かにそこで見つかり、メサドにトゥナーがいることを知っていた中尉は、トゥナーを使者として送ることを提案します。トゥナーとの再会に耐え難い苛立ちを抱くポートは、エル=ガア行きの次のバスにキットと自分用の席を予約します。

 バスの旅の途中、ポートは重病に陥ります。後に腸チフスであることが判明します。ポートもキットも医療機関を受診しようとはせず、予防接種も拒否していました。

 エル=ガアに到着すると、若いアラブ人の同行者がキットの街の案内をします。ホテルはあるが、エル=ガアでは髄膜炎が蔓延しているため、キットは断られます。彼女はすぐに立ち去ることを決意し、若いアラブ人は彼女をスバ行きのトラックに乗せる手配をします。

 スバで、キットとポートはフランス軍駐屯地の医務室に避難します。司令官のブルサード大尉は毛布、食料、キニーネを提供するものの、ポートが身元を証明できないこともあり、新参者に対しては非常に疑い深く、遠慮がちです。

 やがて、タナーも到着します。数週間の闘病の末、ポートは息を引き取ります。キットは貧しいユダヤ人商人ダウド=ゾゼフのもとにいくものの、真夜中に急いで立ち去ります。彼らはさらに南へと追いやられ、サハラ砂漠の奥地へと向かいます。そこはポートの旅の予定ルートにもありました。一方、タナーはブー=ヌーラに戻り、ライルズ一家と最後にもう一度遭遇します。


 砂漠で、キットはトゥアレグ族のキャラバンに加わります。二人のリーダーにレイプされるものの、二人のうち年下のベルカシムとの間には、親密で官能的な関係が芽生え始めます。結婚生活で完全に失われていたキットの性欲が、再び燃え上がります。

 ベルカシムはキットを若い男(「アリ」)に変装させ、故郷テッサリットに到着すると、 4人の妻のうち3人と暮らす大きな家の奥まった部屋に閉じ込めます。女たちはすぐに、連れてきた見知らぬ男が実は女性であることを知ります。

 キットへのベルカシムの興味は徐々に薄れます。キットは、ベルカシムが文化の美の理想に従って太らせようとする試みに抵抗していたからです。女たちがついに一人ずつキットに毒を盛ろうとしたとき、キットは家から逃げ出そうとします。

 スークでバターミルクを盗んだところを、マリ軍兵士のアマールに拾われ、彼のアパートに連れて行かれます。キットはアマールと恋愛関係にあります。キットの再出現を知ると、当局はキットを「救出」しようと全力を尽くします。

 キットはアドラル経由でオランへ移され、最終的にはアメリカに連れ戻そうとするものの、しかし、キットは再び姿を消すのでした。

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