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イサーク・バーベリ『騎兵隊』解説あらすじ

イサーク・バーベリ
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始めに

イサーク・バーベリ『騎兵隊』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

バーベリの作家性

 バーベリは青春時代にフランス語を完璧に習得し、初期の作品をフランス語で執筆していたほどフランス文学に心酔していました。 ​ギ・ド・モーパッサンはバーベリが最も敬愛した作家の一人で、同名の短編『モーパッサン』を著しています。またモーパッサンの師であるフローベールからは、言葉の精度に対する徹底したこだわりを受け継ぎました。

 ニコライ・ゴーゴリとは同じウクライナ出身という背景を共有しています。強烈なコントラスト、風刺やユーモア、色濃い異国情緒や南部的グラマラスな語り口にはゴーゴリの系譜が見られます。

 アントン・チェーホフも余計な説明を排除し、過不足のない描写で人間のドラマを切り取るロシア短編文学の伝統として影響を与えました。

 マクシム・ゴーリキーは作家としての直接の師であり最大の理解者です。無名時代のバーベリの才能を見出し、自身の雑誌『レトピシ』に作品を掲載しました。ゴーリキーが「もっと世間の修羅場に出て人生の経験を積み入れ」とアドバイスしたことで、バーベリは赤軍への従軍や各種職業を経験し、代表作『騎兵隊』が生まれる契機となりました。

 オデッサのユダヤ人社会を描いた『オデッサ物語』などには、ユダヤ的ユーモアや伝承、独特の語りの口調が活かされています。バーベリ自身、ショロム・アレイヘム作品のロシア語訳を手がけるなど造詣が深いものでした。

語りの構造

 ​語り手であるリュートフ(バーベリの分身)は、眼鏡をかけた弱々しいユダヤ人知識人です。彼は、圧倒的な身体能力と原始的な暴力性を誇るコサック兵たちの世界に適応し、認められようと葛藤します。​知識人のもつ人道主義や倫理観と、戦場の暴力性、粗暴さの間で揺れ動く悲劇的な疎外感が作品全体を貫いています。

 作品の最大の特徴は、拷問や殺戮、略奪といった凄惨な戦場の現実を、驚くほど鮮やかで詩的な言語表現で描いている点です。​悲惨な現実と美的なスタイルを同居させることで、戦場の不条理さと人間の業の深さを浮き彫りにしています。

理想と現実

 ​ボリシェヴィキが掲げる「未来のための革命」という理想と、それによって破壊されていく歴史や伝統の悲劇を描いています。​革命という大義のために注がれる血と、取り残される人々の哀しみを描くことで、単純な政治的プロパガンダを拒絶しています。

​ 自陣営である赤軍兵士たちを正義のヒーローとして美化せず、彼らの冷酷さや反ユダヤ主義的偏見をありのままに描いています。一方で、その粗暴なコサックたちが見せる不意の無邪気さや勇敢さ、仲間意識も捉えており、混沌とした戦時下における人間の複雑な真実を差し出しています。

物語世界

あらすじ

 1920年のソビエト・ポーランド戦争に従軍した主人公の目を通して戦場の現実を切り取った全35編からなる連作短編集です。

 1920年、波ソ(ソビエト・ポーランド)戦争下のガリツィア(現ウクライナ西部・ポーランド東部)。ユダヤ人の知識人である主人公キリール・リュートフ(バーベリの分身)は、赤軍の「第一騎兵軍」に新聞特派員として同行します。作品は、彼が目撃した過酷な戦場の記憶と人々の姿を年代記風に紡いでいきます。

 眼鏡をかけた非力なインテリであるリュートフは、粗野で圧倒的な力を持つコサック兵たちから蔑視されます。彼は彼らの輪に入るため、必死に粗野に振る舞おうとします。あるときは老女のガチョウを惨殺してみせることで兵士たちの歓心を買います)。

 第一騎兵軍が進撃する先々で、掠奪や捕虜の殺害、民家の破壊が行われます。リュートフは赤軍の残虐性を目撃すると同時に、戦争によって踏みにじられていく歴史あるユダヤ人の町(シュテトル)や、過酷な運命に耐える人々の哀愁を描きます。

 復讐のためにかつての領主を足蹴にして殺す男や、列車の中で嘘をついた女を容赦なく撃ち殺す兵士など、善悪を超えた凄まじい生命力と冷酷さをもつ兵士たちの姿がエピソードごとに描かれます。

 赤軍の破竹の勢いはポーランド軍の反攻によって打ち砕かれ、部隊は敗走と混乱に陥ります。リュートフは銃を撃つことも命を奪うこともできず、自身が暴力の戦場において最後までよそ者でしかない虚無感と悲哀を抱えたままです。

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