始めに
イーディス・ウォートン『イーサン・フロム』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ウォートンの作家性
ヘンリー=ジェイムズは最も有名かつ重要な影響源です。二人は深い親交があり、ウォートンは彼を師と仰いでいました。ウォートンはジョージ=エリオットの深い知性と、社会における道徳的な責任感に強く惹かれていました。
ウォートンはフランス文化を深く愛し、人生の後半をフランスで過ごしました。バルザックの社会全体を一つの有機体として捉え、詳細に記録する人間喜劇の手法に感銘を受けました。フローベールの写実主義にも刺激を受けました。
文学作品だけでなく、当時の最新科学も彼女に大きな影響を与えています。ダーウィンの進化論やスペンサーの社会進化論を読み込み、人間もまた、環境や血統という抗えない力に支配される生物であるという冷徹な視点を持ちました。『歓楽の家』などの悲劇的な結末には、この環境から逃れられないという科学的な決定論が影を落としています。
愛と世間
病弱で不平ばかり言う妻ジーナへの倫理的・社会的な義務と、純真な従妹マティへの倫理を超えた愛の間で引き裂かれる人間の苦悩を描いています。家庭的・経済的責任の重圧が、個人の幸福への願いを無惨に押しつぶしていく構造が提示されます。
雪に閉ざされた貧しい農村環境と病気、経済的困窮が、登場人物たちを精神的物理的に閉じ込める牢獄として機能しています。一度囚われた環境や運命からは、どれほど強く望んでも逃げ出すことができない絶望感が作品全体を覆っています。
現実からの唯一の脱出手段として選択した心中すら失敗し、死ぬことすら許されずに重い障害を負って生き残ってしまいます。自由を求めた行動が、かえって破滅的な状態で互いを永遠に縛り付けるという、痛烈で皮肉な悲劇性を描いています。
「スタークフィールド(荒涼とした地)」という架空の町の名が示す通り、厳しく長い冬の景観は単なる背景ではなく、不毛で凍りついた主人公たちの人生や抑圧された感情そのものを象徴しています。
物語世界
あらすじ
マサチューセッツ州の極寒の村スタークフィールドを舞台にします。貧しい農夫イーサン・フロムは、病弱で偏屈な年上の妻ジーナとの不毛な結婚生活に耐えていました。そこへ家事を手伝うため、明るく純真な従妹マティがやってきます。暗い日常の中で、イーサンとマティは次第に惹かれ合い、お互いの中に希望を見出すようになります。
2人の親密さに気づいたジーナは激怒し、マティを家から追い出して新しい手伝いを雇うことを決定します。駆け駆け落ちするお金もなく、八方塞がりとなったイーサンとマティは、マティを駅へ送る道中、引き裂かれる苦痛に耐えかねてニレの木に向かってソリで突撃する心中を図ります。
しかし計画は失敗し、2人は死ぬことすら叶わず重い障害を負って生き残ります。数年後、事故で障害を負ったイーサンと、半身不随となりかつてのジーナのように愚痴をこぼすようになったマティ、そして二人を介護する側に回ったジーナの3人が、凍りついた家の中で不満と憎しみを抱えたまま永遠に縛られ続けるという、絶望的な日常が続いています。



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