始めに
オクテイヴィア・E・バトラー『キンドレッド』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
オクテイヴィア・E・バトラーの作家性
ハーラン・エリスンはバトラーにとって最大の恩師のひとりです。1960年代末にワークショップで彼女の才能を見出し、新人SF作家の登竜門である「クラリオン・ワークショップ」への参加を強く勧めました。彼女の最初期の短編を購入したのもエリスンです。
サミュエル・R・ディレイニーは自身より先行して活躍していた黒人SF作家です。白人男性中心だった当時のSF界において、アフリカ系アメリカ人として独自の立ち位置を築いた先達として大きな影響を与えました。
バトラーは子どもの頃から図書館に通い詰めました。セオドア・スタージョン、レイ・ブラッドベリ、ロバート・A・ハインライン、ジョン・ブラナー、ゼナ・ヘンダーソンなどから影響されました。
トニ・モリスンなど同時代の黒人フェミニズム文学や歴史小説からも深い影響を受けました。人種、ジェンダー、階級、支配と従属といったテーマを掘り下げる上で重要なアイディアの源泉となりました。
過去と現在
テーマは過去は過ぎ去ったものではなく、現代に直接つながっているという認識です。デイナが現代へ最終的に戻る際、壁の中に左腕を残して切断されるラストシーンは、奴隷制という過去の惨劇が無傷では済まない物理的心理的傷痕として、現代を生きる肉体に刻まれていることを象徴しています。
デイナは、自らの命と将来の誕生を守るため、のちに奴隷主となる白人の少年ルーファスを救い続けなければなりません。絶対的な悪への単なる「抵抗」か「服従」かという単純な二元論ではなく、圧政下で生き残るために強いられる制度への適応と倫理的な妥協の凄惨なリアリティが描かれます。
ジェンダー
白人奴隷主ルーファスと被支配者である黒人女性たち(アリスやデイナ)の関係を通じ、暴力と親密さ、依存と支配が背中合わせにある構造を暴いています。奴隷制は被支配者の尊厳を奪うだけでなく、支配する側の人間性をも侵食し破壊していく毒性を持ったシステムとして描かれます。
黒人女性が直面する身体的・性的搾取の恐怖や自己決定権の剥奪が克明に描かれます。同時に、デイナの白人の夫ケヴィンがともに過去へ飛ばされた際、彼が白人男性として持つ無意識の特権やシステムへの馴染みやすさが描かれ、人種とジェンダーが個人の立場や生存条件をいかに分断するかが提示されます。
物語世界
あらすじ
1976年のロサンゼルスで暮らす黒人女性作家のデイナは、26歳の誕生日に突如激しい眩暈に襲われ、1815年のメリーランド州、南北戦争前の奴隷制下のアメリカ南部へとタイムスリップします。
川で溺れていた白人の少年ルーファスを救ったデイナですが、彼の父親に銃を突きつけられた恐怖の瞬間、再び1976年の現代へと連れ戻されます。やがて彼女は「ルーファスが命の危険に晒されると召喚され、自身が死の危険を感じると現代に戻る」という法則を悟ります。
調べを進めたデイナは、ルーファスが自身の家系図に連なる先祖であることを知ります。自分が生まれる未来を確実にするため、彼女は彼が成長して先祖の子(ハガー)を設けるまで、何度も過去へ飛ばされては彼の命を救わなければならなくなります。
タイムトラベルを繰り返すうちに過去での滞在時間は長くなり、白人の夫ケヴィンも巻き込まれて現代へ戻れなくなってしまいます。デイナ自身も奴隷として扱われ、鞭打ちや逃亡未遂の罰を受けながら、成長するにつれて残虐な奴隷主となっていくルーファスとの歪んだ関係に苦しめられます。
愛する黒人女性アリスを死に追いやったルーファスは、最終的にデイナをも所有しようと襲いかかってきます。生存のために彼を刺殺した瞬間、デイナは現代へと引き戻されますが、ルーファスに掴まれていた左腕は過去の空間に取り残され、切断されてしまいます。肉体と精神に消えない傷痕を負ったまま、彼女は現代での生活へ戻ることになります。




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