始めに
ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ヒラリー・マンテルの作家性
10歳でシェイクスピアの劇曲全集と出会い、人間観察や劇的な台詞回しの基礎を学びました。
ロバート・ルイス・スティーヴンソン『誘拐されて』などの冒険・歴史物語に強い感銘を受け、家を出て己の道を開く人物像に影響を受けました。
アンソニー・バージェス、ゴア・ヴィダル 、トーマス・キニーリー、J・G・ファレル、バリー・アンスワースなどからも影響があります。
ミュリエル・スパーク やモリー・キーンから辛辣な人間観察と黒いユーモアを継承します。
著作を通じて人間心理の深層や葛藤を描く上でアリス・ミラーが大きなヒントを得たと語っています。
キース・トーマス『宗教と魔術の衰退』は、代表作『ウルフ・ホール』などの背景となる近世ヨーロッパの精神世界・信仰感を理解する決定的な糧となりました。
リアリズム
身分や血統ではなく、情報、財務、法律の知識を武器に権力を掌握するクロムウェルの姿を通じ、理想論ではない徹底した現実主義と冷徹な政治手腕を描いています。
トマス・モアが体現する伝統的なカトリック信仰や中世的秩序と、クロムウェルが推し進める世俗的・合理的・行政的な近代国家システムとの衝突を浮き彫りにしています。
底辺の身分から自力で叩き上げたクロムウェルと、血統のみに依存する伝統的貴族層との対立を通じ、身分制社会における個人の可能性と孤立を描いています。
失脚した恩師ウルジー枢機卿への義理や家族への深い愛情を持つ温かい家庭人でありながら、国家のために政敵を容赦なく排除する冷徹な官僚でもあるクロムウェルの多面的な心理を描きます。
物語世界
あらすじ
16世紀イングランド、鍛冶屋の息子から身を起こした弁護士トマス・クロムウェルが、知識と知略を武器に国王ヘンリー8世の最側近へ登り詰める一大立身出世劇です。
ヨーロッパでの流浪を経て優秀な弁護士、財政家となったクロムウェルは、権力を誇るウルジー枢機卿に仕えます。しかし、ヘンリー8世の王妃キャサリンとの離婚工作に失敗したウルジーが失脚。クロムウェルは倒れた恩師を守りつつ、持ち前の実務能力で自ら国王の信頼を獲得していきます。
ヘンリー8世は侍女アン・ブーリンとの再婚を熱望していましたが、ローマ教皇は離婚を認めません。クロムウェルは法制度を組み替えてローマ教皇庁からの離脱を主導し、国王をイングランド教会の最高首長に据えることで、アンとの結婚を強行突破させます。
ローマ教皇への忠誠を貫き、国王の新体制への誓いを拒むトマス・モアら旧世代の知識人・カトリック派を、クロムウェルは裁判と法の手続きを用いて冷徹に排除・処刑へ追い込みます。
権力の頂点に立ったクロムウェルですが、待ち望まれた男児を生めない新王妃アンにも早くも暗雲が立ち込め始めます。物語は、クロムウェルが次の国王の関心対象(ジェーン・シーモア)の実家である「ウルフ・ホール」を訪れる場面で幕を閉じます。




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