始めに
フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
フィルポッツの作家性
フィルポッツの文脈で最も頻繁に名前が挙がるのがトーマス・ハーディです。イギリス西南部の自然や地方風俗、そこに生きる人々の悲喜劇を描く地域主義文学の先達として、ハーディから大きな影響を受けました。フィルポッツ自身もダートムーア地方を舞台にした一連の小説群(ダートムーア・サイクル)で知られます。
フィルポッツは『赤のレドメイン家』や『赤毛のレドメイン家』などの名作本格ミステリを残しましたが、ミステリ分野の巨匠たちの影響と伝統を受け継いでいます。アーサー・コナン・ドイルとは19世紀末のロンドン時代に交友があり、ロジカルな謎解きやシャーロック・ホームズに代表される英米本格ミステリの型から強い影響を受けました。密室劇や怪奇趣味、知的な推理といった本格ミステリの原点として、ポーの築いた本格の系譜を踏襲しています。
青年期からロンドンの文壇で活動していたため、同時代の多くの有名作家と親交を結び、互いに刺激を与え合いました。ジェローム・K・ジェロームはユーモア小説の大家であり、フィルポッツの初期のライトな文体や戯曲執筆に影響を与えました。ほかにもアーノルド・ベネット、ジョージ・バーナード・ショー、ロバート・ルイ・スティーヴンソンから影響されました。
ミステリとして
犯人の脳髄に描かれた極めて冷徹かつ緻密な犯罪設計図に基づき、計算し尽くされた連続殺人事件が展開されます。死体なき殺人をはじめとする難解な謎と、予測不能な三段構えのどんでん返しが物語の軸となっています。
単に誰が殺したかのロジックだけでなく、犯罪者の歪んだ動機や内面の闇、人間の心理のひだに深く切り込んでいる点が大きな特徴です。登場人物たちの業や狂気が重層的に描かれています。
捜査にあたる若手刑事と、事件の関係者である赤毛の女性との間に芽生える恋愛が、サスペンスと有機的に絡み合っています。真実を追う刑事としての義務と愛する人を守りたいという感情の間で揺れ動く内面の葛藤が、物語に強い緊張感と人間味をもたらしています。
イングランドの荒涼としたダートムーア地方と、美しく魅惑的なイタリア・コモ湖畔という、対照的な二つの土地が舞台となります。田園小説の名手であったフィルポッツならではの、自然の風景や土地の気候がもたらす濃厚な色彩感が、登場人物たちの運命や不穏な事件の空気を際立たせています。
物語世界
あらすじ
スコットランド・ヤードの優秀な若手刑事マーク・ブレブルは、休暇中に訪れたダートムーアの荒野で、息をのむほど美しい女性ヴェラと出会い、恋に落ちます。しかし彼女には、すでにロバート・レドメインという婚約者がいました。
ブレブルは失意のうちにロンドンへ戻りますが、間もなくショッキングな知らせが届きます。ヴェラと結婚したばかりのロバートが、イタリアのコモ湖畔で何者かに射殺されたというのです。
事件の背後には、レドメイン家の「赤毛の三兄弟(ロバート、ベンディゴ、マイケル)」にまつわる深い因縁が隠されていました。ロバートの死を皮切りに、残された兄弟たちにも魔の手が忍び寄ります。犯人は緻密に計算されたアリバイとトリックを使い、あたかも呪いのようにレドメイン家の男たちを次々と罠に嵌めていきます。
復讐と正義感に燃えるブレブル刑事は全力を挙げて捜査に乗り出しますが、犯人が仕掛けた完璧な計画と錯覚のトラップによって翻弄され、痛烈な挫折を味わうことになります。
真犯人は事件の依頼者であり被害者遺族と思われていたヒロインのジェニー(ヴェラ)と、その夫マイケル・ペンディーンでした。目的は莫大なレドメイン家の遺産を横取りすることです。ジェニーはレドメイン家の親族でしたが、偏屈で気難しい赤毛の叔父たち(ロバート、ベンディゴ、マイケル、アルバート)から結婚を反対され、遺産分与を拒まれていました。そこで夫のマイケルと結託し、叔父たちを排除して遺産を独占する完全犯罪を企てました。
最初の殺人では夫マイケルと叔父ロバートが密室状態のバンガローで姿を消し、大量の血痕が残され、気性の荒いロバート叔父さんが発狂してマイケルを殺し、逃亡したと思われましたが、実際はマイケルが生きており、ロバートの方が消されたのでした。生き残ったマイケルは、死んだはずの人物や別の人物に巧妙に変装し、残りの叔父たちを次々と誘い出して殺害していました。警察(マーク・ブレブル刑事)には「姿を消したロバート叔父さんが次々と兄弟を殺している」と思い込ませ、実在しない人物を延々と追わせることで、捜査を完全に迷走させました。
捜査を担当した若手刑事マーク・ブレブルは、ヒロインであるジェニーの美しさにすっかり目を奪われ、恋心を抱いてしまっていました。そのため、かわいそうな被害者の美しき未亡人として接してしまい、彼女の言葉を疑うことなく信じ込んで、犯人が用意した偽の手がかりにまんまと誘導されていたのです。
最後に登場するアメリカの名探偵ピーター・ガントが、ブレブル刑事が完全に見落としていた証言の矛盾やアリバイの不自然さを冷徹なロジックで解き明かします。悲劇のヒロインのジェニーこそが共犯者であることや、ブレブル刑行が追っていた姿なき殺人鬼の正体は、変装した彼女の夫マイケルであったことが暴露され、追い詰められた犯人たちの計画は崩壊しました。




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