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ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』解説あらすじ

ピエール・ルメートル
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始めに

 ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ルメートルの作家性

​ ルメートルが自身に最も大きな影響を与えた作家として真っ先に挙げるのが、『三銃士』『モンテ・クリスト伯』で知られる大デュマです。19世紀の新聞連載小説(ロマン・フイユトン)特有の、波乱万丈で怒涛のサスペンス展開を現代小説に取り入れています。

デビュー作『悲しみのイレーヌ』は、作中の犯人が過去の名作ミステリの殺人現場を模倣するというプロットになっており、ルメートル自身が敬愛する作家たちへのオマージュとなっています。​ジェイムズ・エルロイ、​ブレット・イーストン・エリス、​ウィリアム・マキルヴァニー、カポーティ、ア​イラ・レヴィンなど。

ゴンクール賞を受賞した『天国でまた会おう』をはじめとする歴史、大河ドラマでは、19世紀の巨匠たちの技法が色濃く現れています。​ヴィクトル・ユーゴー、バルザック、フローベール、ディケンズ、プルーストなどです。

ほかに​ティエリー・ジョンケ(『蜘蛛のつむぐ糸』)、​キャリル・フェレ(『ズールー』)、​デヴィッド・ピース(『レッド・ライディング』四部作)、​ジョージ・ペレカーノスから影響されました。

戦争と偽善

 ​物語の根底にあるのは国家は命がけで戦った生者を捨て、死者ばかりを崇めるという強烈な社会批判です。戦場から帰還した兵士たちは、心身に深い傷を負いながらも仕事も手当もなく、社会の底辺で忘れ去られています。

 一方で国家や世間は、戦死者を「英霊」として神格化し、巨額の予算を投じて巨大な慰霊碑の建設や公式墓地の整備に躍起になります。​命を捧げた若者を見捨てる国家の冷酷さと偽善が、物語全体の大きな推進力となっています。


 ​戦争が生み出すのは悲劇だけでなく、それに乗じて暴利を貪る戦争成金たちの醜い強欲さです。劇中の悪役のプラーデル少尉は、終戦直前に手柄を立て、戦後は戦死者の遺体を再埋葬する大規模事業で手抜きや詐欺を行い、巨万の富を得ます。

失った顔

 主人公の二人(アルベールとエドゥアール)もまた、国家が死者崇拝に熱中している隙を突き、架空の慰霊碑カタログを売りつける巨大詐欺を計画します。


​ ​主人公の一人エドゥアールは、戦場で顔の下半分を吹き飛ばされ、顔のない兵士となります。容貌と声を失った彼は、かつての自分や家族を捨て、死んだことにして生きていく道を選びます。芸術家肌の彼は、紙粘土などで奇抜で美しく表情豊かな仮面を次々と制作し、顔の代わりに装着します。仮面は彼の傷を隠す道具であると同時に、社会への怒りや情熱を表現するアートであり、心の拠り所となります。

父との確執。二人の対比

 作品の感情的な核となっているのが、エドゥアールと、政財界の名士である父ペリクールとの不全な親子関係です。 厳格で権威主義的な父は、繊細で自由奔放な息子の芸術的才能を理解できず、二人は戦前から対立していました。父は息子を失って初めて(実際には生きているとは知らずに)激しい後悔と悲しみに苛まれ、息子は父からの愛と承認を渇望しながらも素直になれません。手遅れになってから交錯する親子の愛執が痛切に描かれます。

 何から何まで対照的な二人の主人公の絆も、本作の大切なテーマです。​アルベールは気弱で真面目、小心者だが誠実な元銀行員。​エドゥアールは破天荒で個性的、傷ついた天才芸術家。​社会の底辺に追いやられた二人が、互いの傷を補い合い、命を救い合いながら巨大な社会機構に立ち向かう姿が描かれます。

物語世界

あらすじ

 ​1918年11月、第一次世界大戦の休戦協定が目前に迫る西部戦線。​功名心に駆られた貴族出身のプラーデル少尉は、手柄を立てるため味方の兵士を密かに背後から射殺し、「敵の攻撃が始まった」と偽って無意味な突撃命令を下します。


 ​この混乱の中、元銀行員の真面目な兵士アルベールは砲弾の穴に生き埋めにされますが、芸術家肌の青年兵士エドゥアールに救出されます。しかし、救い出した直後、エドゥアールは頭部に砲弾の破片を受け、顔の下半分を吹き飛ばされる重傷を負ってしまいます。


​ ​戦後、言葉と顔を失ったエドゥアールは、自分を理解してくれなかった厳格な資産家の父のもとへ戻ることを拒み、「自分は戦死した」と偽るようアルベールに頼み込みます。アルベールは命の恩人を救うため、書類を捏造して彼をパリの場末のアパートへ連れ帰ります。


 ​しかし、戦後のフランス社会は生還した兵士たちに冷淡でした。​アルベールとエドゥアールは極貧の中で定職にも就けず、後遺症の激痛とモルヒネ中毒に苦しむエドゥアールを、アルベールが献身的に介抱するどん底の生活を送ります。​


 プラーデル少尉は終戦時の嘘で英雄となり、エドゥアールの姉と結婚。さらに国家事業である戦死者遺体の再埋葬を請け負い、小さすぎる棺桶や名札の偽装などの手抜き工事で莫大な不正利益を貪っていました。


​ ​国が生き残った貧しい兵士を見捨て、死者たちを崇める慰霊碑建設ばかりに熱中している世の中に怒りを募らせたエドゥアールは、ある破天荒な復讐計画を思いつきます。​架空の戦争慰霊碑カタログを作成し、全国の自治体や遺族から前払い金だけを騙し取って海外へ逃亡することです。


 ​アルベールは最初は恐れおののくものの、エドゥアールの描く圧倒的なデザインと巧みなプロットに巻き込まれ、二人で巨大な国家詐欺計画を開始します。注文は殺到し、計画は大成功を収めて巨額の金が手に入ります。


​ ​詐欺が成功を収める一方、二人の運命は皮肉な形で引き寄せられていきます。​慰霊碑カタログに一番の大口注文を出してきたのは、エドゥアールが死んだと思っている実の父親でした。父は息子を失った後悔から、息子を称える巨大な慰霊碑を建てようとしていたのです。


 ​​戦死者の遺体ビジネスで莫大な不正を働いていたプラーデル少尉は、執念深い行政監察官メルランによってすべての罪を暴かれます。​社会的破滅に追い込まれたプラーデルは、不正の証拠を隠滅しようと自らの墓地工事現場へ向かいますが、作業中に崩落した大量の土砂に呑み込まれます。自らが金儲けのために兵士たちを雑に埋めたまさにその墓穴で、生きたまま埋もれて窒息死しました。


​ ​巨額の慰霊碑詐欺を成功させたエドゥアールは、パリの最高級ホテル(ホテル・リュテシア)に潜伏していました。そこへ、カタログの発注者として実の父親である名士ペリクールが訪ねてきます。


​ エドゥアールは豪華な鳥の仮面をつけて父を迎えます。会話の中で父ペリクールは、目の前の芸術家が「死んだとばかり思っていた息子」であることに気づきます。父は過去の無理解を深く謝罪し、息子を抱きしめて長年の確執はついに溶けて消えました。父からの承認と愛を得て、生きる目的を果たしたエドゥアールは、父が去った直後、鳥の仮面をつけたままホテルのバルコニーから身を投げます。そして、下で待っていた父の高級車の前に落下し、命を絶ちました。タイトルでもある「天国でまた会おう」は、開戦直後に処刑された兵士の手紙の言葉であると同時に、この世の苦しみから解放されたエドゥアールの最期の境地を象徴しています。


​ ​息子が生きていたこと、そして自分と再会した直後に自ら命を絶ったという絶望的な現実に打ちのめされた父ペリクールは、急速に心身を病んでいきます。​最愛の息子を本当に失った悲しみと罪悪感から立ち直ることができないまま、彼は間もなく失意のうちに息を引き取りました。


​ ​エドゥアールの死を見届けたアルベールは、詐欺で得た巨額の金を受け取ります。​彼は下宿先で心を通わせ、後にペリクール家の給仕となっていた女性ポーリーヌとともに、警察の追手を完全にかわして南米へ高飛びすることに成功します。


 ​かつて国家に見捨てられ、暗い泥沼の底にいたアルベールは、エドゥアールとの絆によって救われます。

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