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トバイアス・スモレット『ハンフリー・クリンカー』解説あらすじ

トバイアス・スモレット
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始めに

トバイアス・スモレット『ハンフリー・クリンカー』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

スモレットの作家性

 スモレットの出世作となった最初の小説『ロデリック・ランダムの冒険』は、ルサージュの代表作であるピカレスク小説『ジル・ブラース物語』をモデルにしています。スモレット自身、この作品をフランス語から英訳するほど、ルサージュの物語構造や旅の描き方に深く傾倒していました。


​ スモレットは1755年に『ドン・キホーテ』の英訳版を出版しており、その構造やユーモアから多大な影響を受けました。彼の小説『サー・ランスロット・グリーブズの冒険』は、まさに『ドン・キホーテ』の舞台を当時のイギリスに置き換えたオマージュ作品です。


​ ベン・ジョンソンは​シェイクスピアと同時代に活躍したイギリスの劇作家ですが、人間の特定の奇癖や性格を誇張してコミカルに描く気質喜劇の手法は、スモレットのキャラクター造形にダイレクトに受け継がれました。


​ ユウェナリスは​古代ローマの風刺詩人で、スモレットの人間の愚行や社会の汚さを容赦なく暴き立てる、攻撃的でトゲのあるトーンのルーツです。


 スウィフトは​『ガリヴァー旅行記』の著者であり、18世紀イギリスの風刺文学の巨匠ですが、社会の欺瞞に対する冷徹な視線や、人間の肉体的な醜さ・悪臭といった不快な現実から目を背けずに描写する写実的なアプローチにおいて、スモレットはスウィフトの系譜を強く引いています。

相対主義

 ​テーマは同じ場所や出来事でも、見る人の年齢、性別、健康状態によって全く違って見えるという主観性の面白さです。​偏屈で病気がちな家長マシューは、流行の温泉地バースを不衛生で、騒々しく、悪趣味な地獄と嫌悪します。​一方、世間知らずでロマンチックな姪のリディアは、同じバースをまるで楽園のように素晴らしい場所と絶賛します。


 ​客観的な絶対の真実ではなく、人間のバイアスや心理状態によって世界が形作られることを、手紙の対比を通じてユーモラスに描いています。

ピカレスク

 ​18世紀後半、産業革命や商業主義によって急速に変化するイギリス社会への強い批判が込められています。ロンドンやバースのような大都市は、成金が蔓延し、伝統的な道徳が崩壊した退廃の象徴として描かれます。対照的に、ウェールズや、著者スモレットの故郷であるスコットランドの田舎は、素朴で温かいホスピタリティが残る理想郷として賛美されています。


​ ​物語は、家長マシューが痛風や心気症の治療のために、温泉巡りの旅に出ることから始まります。旅の中で様々なトラブルや人々(タイトルロールである誠実な青年ハンフリー・クリンカーなど)に出会い、スコットランドの大自然に触れることで、マシューの心と体は次第に健康を取り戻していきます。


 ​出発時点では、偏屈な兄、結婚に焦る口うるさい妹、生意気な甥、恋煩いの姪、お調子者の女中と、バラバラで不満だらけだった家族が、旅の終わりにはお互いを理解し、固い絆で結ばれます。さらに、道中で召し抱えた貧しい青年ハンフリーが、実はマシューの若き日の私生児であったことが判明します。

物語世界

あらすじ

 ​物語の語り手は、ウェールズの田舎に住む不機嫌で痛風持ちの地主、マシュー・ブレンブル。彼は自分の心気症を治すため、温泉地を巡る旅に出ることを決意します。​旅を共にするのは、個性が強すぎる家族たちです。​タビサは結婚に必死で、口うるさいマシューの行き遅れの妹。​ジェリーは大学生で、冷静に大人たちを観察する甥。リディアは貧しい役者ウィルソンとの恋を叔父に引き裂かれ、恋煩い中の姪。​ウィニフレッドは勘違いの多い、小生意気な女中。


 ​一行はまず、流行の温泉地バースや大都会ロンドンを訪れますが、マシューは都会の喧騒と不衛生さに文句を言い続け、リディアは失恋の痛手から立ち直れません。


​ ​ロンドンを出発して北上中、一家の馬車が故障します。そこで出会ったのが、まともな服も着ていない極貧の青年ハンフリー・クリンカーでした。最初は彼の見すぼらしさに驚く一家ですが、ハンフリーの誠実で信心深い人柄と、危うく馬車がひっくり返りそうになったところを助けてくれた男気を気に入ったマシューは、彼を従者として召し抱えることにします。


 ​ハンフリーは非常に忠実ですが、純粋すぎるがゆえに、行く先々で強盗と間違えられて逮捕される、熱心にキリスト教の説教をして騒動を起こす、など、次々とトラブルを巻き起こします。


 ​一行はマシューの病気療養のため、さらに北のスコットランド(エディンバラやロッホ・ローモンドなど)へと向かいます。美しい大自然と素朴な人々に触れるうちに、マシューの健康状態は劇的に回復し、バラバラだった家族の心も穏やかになっていきます。


 ​道中、インド大戦から帰還したという、風変わりで骨張ったスコットランドの退役軍人リスマハーゴ大尉が旅に加わります。なんと、あの偏屈な妹タビサがこの大尉といい仲になり、アプローチを始めます。


​ ​ウェールズへの帰り道、一家の馬車が川で転覆する大事故が発生。ハンフリーは命がけで主人マシューを救い出します。近くの旧友の屋敷に逃げ込んだ一行ですが、ここで衝撃の事実が次々と発覚します。ハンフリーの身元を調べたところ、彼がマシューの若き日の私生児であったことが判明します。マシューは涙を流して実の息子として彼を認知します。


​ またリディアが忘れられずにいた貧しい役者ウィルソンが、実はマシューの旧友の息子(大富豪の跡取り息子)が身分を隠して旅をしていた姿だと分かります。叔父マシューも、これならと二人の結婚を快諾します。


​ 物語は、リディアと恋人、タビサとリスマハーゴ大尉、ハンフリーと女中ウィニフレッドという3組のカップルの合同結婚式で幕を閉じます。心身ともに健康になり、新しい家族を迎えた一行は、幸せに満ちてウェールズの我が家へと帰っていくのでした。

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